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モンテッソーリ教育とは?敏感期や5領域、メリット、「おうちモンテッソーリ」、おすすめ教具4選を紹介

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子どもの個性や才能を伸ばす「モンテッソーリ教育」。シュタイナー教育と並んで英才教育のイメージが強いものの、具体的にどのような内容なのか、またモンテッソーリ教育を受けた子どもたちがどう育つかについては、あまり知られていません。

この記事では、モンテッソーリ教育の歴史や基本的な考え方、おうちでできるモンテッソーリ教育の例や、「教具」と呼ばれる代表的な教材を紹介します。

イタリア生まれのモンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育は、ローマ大学医学部でイタリア初の女性医学博士を取得した、マリア・モンテッソーリが考案した教育法です。1907年、貧困層向けの保育施設「子どもの家」の監督を務めることになったモンテッソーリが、同園での実践をもとに発展させてきました。

第一次ブームは1909〜1915年ごろ、日本では大正時代に広まりました。一時は当時の教育改革者たちの批判を受け衰退したものの、アメリカでは1950年代末、日本では1960年代半ばに再びブームが到来したといわれています。※1
今では世界110か国以上、日本全国に120以上のモンテッソーリ教育実践園が存在します。※2

モンテッソーリ教育の理念は、「子どもは本来自己を教育する力(=自己教育力)をもっていて、発達段階にふさわしい環境を整えることで、その潜在能力が開花するのを援助する」というものです。日本の一般的な教育では大人が教える内容を決めますが、モンテッソーリ教育には「上の者が下の者へ」という考え方がありません。子どもは未熟者ではなく、自己教育力をもっており、大人の役目はそれを理解して援助することだと考えられています。※3

モンテッソーリ教育を受けた著名人には、日本では将棋棋士の藤井聡太氏、世界ではApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏、アンネ・フランク氏やオバマ元大統領といった錚々たる人物が名を連ねます。

モンテッソーリ教育の軸は「敏感期」と「お仕事」

モンテッソーリ教育の目的は、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことです。※4

そのために「敏感期」が重視されています。敏感期とは、もともとはオランダの生物学者ド・フリース(1848~1935)が注目した「生き物には幼少期に、一定のことに対して感受性がとくに敏感になる時期がある」という時期です。モンテッソーリは、人間にも敏感期があることを見出しました。

モンテッソーリ教育では発達段階の特徴に応じて、0~3歳までを前期、3~6歳までを後期として分けており、言語や秩序、運動などに対してさまざまな敏感期が表れるとしています。特に、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の5つがほぼ完成される3~6歳の時期に五感をよく使うことが、将来的に高い専門性や芸術性、道徳性の土台になるとモンテッソーリ教育では考えられています。

敏感期を有効に活用するためには、“物的環境”と“人的環境”が不可欠です。※3
「教具」もその一つ。教具はモンテッソーリ教育では“教材”のような立ち位置で、大人が生きるために働くことと、子どもの発達のための活動は同じという考えから、教具に触れる時間は「お仕事」と呼ばれています。

モンテッソーリ教育の「5領域」とは

モンテッソーリ教育における「お仕事」には、次の5つの領域(分野)があります。

日常生活の練習(運動)の領域

自立した生活を送るための知識や技能、態度を養うもので、モンテッソーリ教育の土台です。「机をふく」「洗濯をする」など、大人が日常的にしていることを1人でできるようにします。

関連記事:なぜ幼児期の運動は大切なの?幼児期運動指針や運動遊び、モンテッソーリ教育における運動の敏感期について解説

感覚教育の領域

感覚を研ぎ澄ませるための教具遊びのこと。「円柱差し」や「幾何タンス」、「構成三角形」や「長い棒」などが感覚教具と呼ばれています。

言語教育の領域

あいさつや問いかけ、読み聞かせ、コミュニケーションなどであり、生後すぐに始まります。2歳以降は、「鉄製はめこみ」や「砂文字盤」、「移動五十音」や「物と名前のカード」などの教具も用います。

算数教育の領域

基本的に3歳から始まり、「算数棒」や「砂数字版」、ビーズなどを使って数の概念を培います。

関連記事:子どもに数を教える方法とは?数の概念や効果的な遊び、モンテッソーリ教育における数の教え方について解説

文化の領域

3歳以降、地図や地球儀、動物や植物、飼育や園芸、採集などを通して、自分たちが暮らす世界について体感します。

「お仕事」は上記だけにとどまりません。園行事やお集まり、給食の準備や音楽、お絵描きや散歩も、上に挙げた5領域をさらに洗練する場として大切にされています。さらに、モンテッソーリ教育では、「どんなことにも選ぶ要素を与える」ため、子どもたち自らが遊びの種類や、給食で自分の食べる分量を決めます。※3

自宅でできる「おうちモンテッソーリ」

5領域はモンテッソーリ実践園などで行われますが、モンテッソーリ園が近くにない、またはお子さまがすでに小学生以上の場合は、自宅で取り入れることもできます。とくに、子どもが「自分は自立したひとりの人間なのだ」と自信をもつための「日常生活の練習(運動)の領域」は、家庭でも取り入れやすいものばかりです。年齢別には、次のようなものが挙げられます。※5

年齢 家庭でも取り入れやすいもの
0歳 野菜・果物・花などの匂いをかぐ・触る、大人が身の回りのものを紹介する、コップで飲む、手づかみで食べる
1歳 ゴミをゴミ箱に入れる、カーテンを開ける、食器を片づける、野菜などを冷蔵庫に入れる、みかんの皮をむく、野菜の水切り、バナナをバターナイフで切る
2歳 ほうきで掃く、花瓶に花を生ける、トングでよそう、洗濯物を干す、鏡を見て服を正す、洗車する、植物の種や苗を植える
3~4歳 ぞうきんがけ、アイロンをかける、お風呂掃除、食器洗い、食卓の準備や片づけ、机や椅子を運ぶ、お茶を注ぐ
5~6歳 お弁当箱に食べものを詰める、身じたく(カバンに持ちものを入れる)、体温を測る、料理をする、縫いもの・編みもの

一方、おうちでモンテッソーリ教育を取り入れる際には気をつけたいことが4点あります。※4

対象を一つだけ決める

子どもに教えたい行為を一つに絞り、その行為だけに注意を向けさせる。ほかのものは極力、子どものまわりに置かない。

動作を分析し、順序立てる

まずは大人がその動作をよく分析し、各部分がどうなっているかを子どもに見せながら、正確にゆっくり、順を追って実行する。

難しいところをはっきりさせる

大人がやっても難しい部分や、子どもがかならず行き詰まる部分を見極め、とくに丁寧にくりかえし見せる。

動作を見せる間は、言葉を使わない

言葉で説明せず、黙ってやって見せる。子どもは「そうすればできるんだ!」と感じることができる。その後、言葉で説明する。

モンテッソーリの言葉に、「教えながら、教えなさい」というものがあります。大人はとっさに手や口を出したくなりますが、すると子どもの心は萎縮する。やり方を教えたあとは、基本的に自由にさせるのがよい、という意味だそうです。

モンテッソーリ教育のメリットは「自立した子ども」になること

モンテッソーリ教育のメリットには、主に次の6つがあります。

  1. 自分の考えをもち、他人の意見に流されない子どもになる
  2. 善悪の判断がきちんとできるようになる
  3. 時間を効率よく使うようになる
  4. 礼儀正しく育つ
  5. 授業を集中して聞き、その時間で理解するようになる
  6. 問題解決能力が身につく
    1. 上記は、モンテッソーリ教育を受けた子ども延べ1,000人を対象に、1999~2009年の10年間にわたって調査した研究でみられた成果です。※6

      またこれらは、近年注目されている「非認知能力」というスキルにも共通します。非認知能力とは肉体的・精神的な健康や根気強さ、意欲や自信のことで、非認知能力の高さは成績や学歴、社会人になってからの雇用形態、年収に比例するともいわれています。※7

      モンテッソーリ教育の代表的な教具4選

      モンテッソーリ教育の教具は、フランスの医師エドゥアール・セガン(1812~1880)が知的障害児向けに開発したおもちゃ(教具)に由来します。セガンの教具は長い間注目されてきませんでしたが、ブルヌヴィル(1840~1890)という医師が注目したことで、「セガン教具」として世に広まりました。モンテッソーリはセガン教具に大きな刺激を受け、改良と改善を重ねて、普通児向けの「モンテッソーリ教具」を作ったそうです。

      ここではそんなモンテッソーリ教具のなかで、代表的な4つを紹介します。※1

      触覚板

      触覚板

      触覚板は子どもの触覚を洗練するために開発されたもので、砂紙(ザラザラ)と木地(ツルツル)の面が交互に貼ってあります。

      セガンは「触覚」が五感の第一であり、ほかの感覚はその変形にすぎないと考え、現在の触覚板の原型となる教具を開発しました。モンテッソーリはさらにそれを発展させ、見ることは「読み」の準備、触れることは「書き」の準備だと考えたのです。触覚板によって書くための準備をすると同時に、視覚・聴覚によって「読み」を鍛えることを目指しました。

      赤い棒

      赤い棒

      長さの概念を視覚的に理解する目的でつくられた「赤い棒」。断面は2.5cm×2.5cm、長さは10cmから1mまで、10cm刻みの10本で構成されています。感覚領域で用いられるモンテッソーリ教具であり、セガン教具の「物差し」が由来だといわれます。

      モンテッソーリはこの赤い棒からさらに「茶色の階段」や「算数棒」などの教具を思いつき、子どもたちに算数の基礎を無理なく身につけさせたそうです。

      茶色の階段

      算数棒

      平面はめこみ

      平面はめこみ

      視覚で“平面図形”を認識させるセガン教具の「型はめ色合わせ」を継承した、モンテッソーリ教具の「平面はめこみ」。形からは視覚を、指で枠に触れることからは触覚を研ぎ澄ませることができます。また、図形を置く際にサイズの一致や間違いに気づく体験は、自己教育に繋がると考えられています。

      幾何学立体

      幾何学立体

      自然界に存在するものや形を視覚で認識させる「幾何学立体」。青色の球や立方体、円錐、角錐などを平面に置いて比較し、“立体の投影面である平面図形”を見つけることが目的です。

      子どもが平面から立体をイメージしやすいよう、幾何学立体には「投影板」がついています。立体を認知することは、自然界のより複雑な形を認識する能力に発展すると考えられています。

      「非認知能力」がもたらす良い影響

      モンテッソーリ教育の目標は、「教具」を通して子どもの五感を研ぎ澄ませ、自立した、生涯学び続ける子どもを育てることです。しかしながら、お父さん・お母さんのなかには学力や成績につながるのか心配する方もいるかもしれません。

      モンテッソーリ教育で育まれる非認知能力は、近年文部科学省も重要視しているスキルで、学校教育にも少しずつ浸透しています。モンテッソーリ教育を通して算数の基礎や学ぶ意欲が身につくため、たとえすぐには成績に結びつかなくても、将来的に学力や社会性の高いお子さまになる可能性があります。

      ただ現状の日本は、モンテッソーリ実践園は全国にあっても、学校教育においては受け皿がほとんどありません。まずは、おうちモンテッソーリやモンテッソーリ教具を日常的に取り入れ、ご家庭の方針やお子さまの性格に合っていれば継続するとよいでしょう。

      関連記事:非認知能力とは?ペリー就学前プロジェクトや非認知能力を育てる方法、家庭での伸ばし方について解説

      参考資料

      ※1 竹田康子 モンテッソーリ教具の歴史的変遷 大阪大学教育学年報. 19 P.31-P.48 2014-03-31
      ※2 日本モンテッソーリ教育綜合研究所 モンテッソーリ教育実践園リスト
      ※3 長田勇・立田佐武朗・小松広子・立田千陽子・山根悦子・堀澤理恵・岩崎桂子 モンテッソーリ教育の核心 小池学園研究紀要 No.12 2014-03-25
      ※4 相良敦子 お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる 文藝春秋 2007-8-10
      ※5 北川真理子 いちばんていねいな はじめてのおうちモンテッソーリ KADOKAWA 2021-10-27
      ※6 金丸雅子 非認知能力の育成におけるモンテッソーリ教育の有効性-幼稚園教育要領の改訂にあたって- 北海道文教大学研究紀要 第 42 号 2018-01
      ※7 西田季里、久保田(河本)愛子、利根川明子、遠藤利彦 非認知能力に関する研究の動向と課題 東京大学大学院教育学研究科紀要 第58巻 2018

原 由希奈

原 由希奈

1986年生まれ、札幌市在住。北海道武蔵女子短期大学英文科卒、在学中に英国Solihull Collegeへ留学。幼児教育、小学校教育、ICT教育やプログラミング、オルタナティブ教育、絵本などのジャンルで執筆するインタビュー・コラムライター。ダイヤモンド・オンラインなどのWebメディアで執筆。2016年生まれ・2018年生まれの男児を育てる2児の母。

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