最近注目されている「ギフテッド教育」とは?特徴や日本の現状を解説
近年、日本でも子どもの才能を伸ばすことを目的とした「ギフテッド教育」が注目されています。どのような子どもを対象とした教育であり、どのような特徴があるのか、ギフテッド教育先進国と比較しながら日本におけるギフテッド教育の現状をご紹介します。
ギフテッドとは
ギフテッドってどういう意味?
ギフテッドは、英語のgiftedからきている言葉で、「生まれつき才能のある」という意味があります。さまざまな才能をもって生まれたギフテッドの子どもに対して行う教育を「ギフテッド教育」と呼んでいます。ギフテッド教育は、それぞれのギフテッドの子どもが持つ能力を最大限に引き出すための教育です。※1
文部科学省では、ギフテッドという言葉は使わず、「特定分野に特異な才能」と示しており、その特定分野に特異な才能のある子どもに対して行う教育を「才能教育」と呼んでいます。この記事では、「才能教育」ではなく、広く知られている「ギフテッド教育」という言葉を使って説明します。※2
ギフテッドの定義や判定基準はあるの?
ギフテッドの子どもたちはどのようにして判定されるのでしょうか。
実はギフテッドに関する一律の定義はなく、国によっても違います。ギフテッドの目安はIQ130以上といわれていますが、必ずしもIQ(知能指数)だけで判断されるものではありません。ギフテッド教育に先行的に取り組んでいるアメリカにおいても、IQや学問だけでは判断せず、IQテストでは測ることができない芸術や創造性、リーダーシップなどさまざまな領域の特定分野において優れた才能を持っている場合にもギフテッドの対象としています。IQは「ギフテッドではないか」という一つの判定の目安にすぎず、実際には包括的に判断されています。※2
日本においても同様に、現在、ギフテッドの明確な判定基準はありません。※2
文部科学省では、ギフテッドと判定される子どもの特性を一例として挙げています。
- 単純な課題は苦手だけど複雑で高度な活動が得意な子
- 対人関係は上手ではないが想像力が豊かな子
- 読み書きは困難だが芸術的な表現が得意な子 ※3
このようにギフテッドの子どもの特徴はさまざまです。さらに、特異な才能と学習困難を併せ持つ子どももギフテッドに含まれ、2E(twice-exceptional)と呼ばれています。※2、3
近年のギフテッド教育は、IQを基準に才能を伸長する教育(領域非依存的な教育)だけではなく、特定の分野に焦点を当てて行う教育(領域依存的な教育)や、2Eの子どもに対する教育(困難さをサポートしながら特異な才能を伸ばしていく教育)も含めた教育へと変化しています。※2
日本の現状
これまで日本では、学校でギフテッドをどのように定義し、見いだし、その能力を伸ばしていくのかという話し合いが十分に行われてきませんでした。
しかし、令和3年度から「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」が設置され、議論が行われています。子どもや保護者たちにアンケートを行って、学校や学校外におけるギフテッドの事例を集め、ギフテッドによる困難事例や学校での支援内容などの把握に努めました。※2
アンケートは、ギフテッドである児童・生徒本人に加えて、保護者、教師、支援団体職員、スクールカウンセラーなど808人を対象に行われ、980件の事例が寄せられました。
ギフテッドの事例としては、言語、数理、科学、芸術、音楽、運動、特定の事柄への強い関心、創造性、集中力、記憶力など多様です。彼らが学校で経験した困難さとして、以下のような回答が挙げられました。
- 周囲に合わせなさいと叱られた
- 授業中は常に暇を持て余していた
- 授業中は周りに合わせるため、あえて発言を控え、わからないふりをしていた
- 難しい単語や話題を友人に話すことができない
このように、授業中や学校生活に辛さを感じているようです。※4
例えば、授業が退屈であるがゆえに席を立つ子どもがADHDと判断されることもありますが、ギフテッドの特性が発達障害と間違えられ、効果的な支援につながらないケースも少なくありません。※4
国はアンケート結果などを踏まえ、ギフテッドに対する指導・支援を始めています。※2
ギフテッド教育の特徴
ギフテッド教育には次のようなメリットが挙げられます。
- 才能あるがゆえに抱えている個々の困難さをサポートできる
- 優れた才能を引き出し、伸ばすことができる
特定の学問や記憶力、創造力などの能力などが突出した子どもは、授業や学校生活に違和感があり、なじめないケースが少なくありません。ギフテッド教育は個々の困難さをサポートしながら、その子の才能に合ったカリキュラムで進めるため、学習意欲を低下させることなくさらに才能を発揮させることができます。
さらに、ギフテッド教育の特徴を、諸外国の例を挙げて説明します。
アメリカのギフテッド教育
アメリカでは、1950年代からギフテッド教育が本格的に推進されました。1980年代以前は国の地位を高めるという目的で、「国家中心的」かつ「取り出し型(特定分野に特異な才能のある児童生徒を取り出して支援する)」の取組みが行われていましたが、現在は子どものさまざまなニーズに対応する「学習者中心的」な取組みに変わってきています。また、障がいの有無にかかわらず、すべての子どもを受け入れる教育「インクルーシブ型」の取組みも増えてきています。州や学区・学校によっても異なりますが、小学校・中学校・高等学校・大学への早期入学、飛び級なども行われています。※2
フィンランドのギフテッド教育
フィンランドでは、ギフテッドに関する定義はありませんが、1990年代から多様性を尊重した教育を行ってきました。子どものニーズに応じた教育として、「学習者中心的」かつ「インクルーシブ型」の取組みが行われています。しかし、今はまだ個々の教師に任されている状況であり、国全体として体系的に行われているわけではないようです。またギフテッド教育に関する国民的議論はまだ行われていません。※2
韓国、シンガポール、中国などのアジア諸国では、「国家中心的」かつ「取り出し型」の教育が行われています。特に韓国には「英才教育振興法」があり、才能のある児童生徒を選抜して特別な指導が行われています。※2
日本にはギフテッド教育を受けられる学校がまだ少ない
残念なことに、日本にはギフテッド教育を受けられる学校がまだ少ないのが現状です。アメリカのようにギフテッド教育を広く進めていくためには、ギフテッドを理解する教育関係者や医療専門家が増えることが必要です。また、ギフテッドの子どものなかには、特定の状況でしか才能を見せないケースや、高い才能を発揮することができるのにそれをオープンにしないケースなど、才能が隠れている場合もあります。才能を伸ばすためには、適切な環境とサポートが不可欠です。ギフテッド教育の意味や内容が広く浸透し、ギフテッドの子どもたちが思いきり学べる環境が早急に整備されることに期待します。※5
ギフテッド教育に対応した取組み
最後に、日本におけるギフテッド教育の実例をご紹介します。1999年4月に設立された翔和学園は、もともと18歳以上の教育的支援を必要とする若者たちが社会的自立をめざすための学校でしたが、2004年に高等部が、翌2005年には小中学部が開設され、一貫した特別支援教育が行われています。翔和学園はギフテッド2E教育にも力を入れており、IQが高く才能が突出しているけれどもさまざまな困難さのために学校生活の枠組みになじめなかった子どもたちが、のびのびと活躍しています。
ギフテッド2E教育を行う翔和学園
翔和学園の掲げる教育の目的は、「人間の生きていく気力を育てる」ことです。学園長である伊藤寛晃氏によれば、発達障害やそれに類似する苦手さを持つ若者が社会に出ていくためには、彼らに青春時代の思い出をたくさん刻んでもらうことが大事であるといいます。※6
翔和学園のギフテッド2E教育では、障害ばかりが注目されて才能を伸ばす機会を失った子どもたちに十分な学習の機会を与えていくことを目的としており、発達障害や苦手な部分だけを支援するのではなく、能力を活かし、伸ばしていくことを重視して教育を行っています。※6
参考資料
※1 南出康世(編集). (2014). ジーニアス英和辞典第5版. 大修館書店.
※2 文部科学省 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有職者会議 論点整理(案)
※3 文部科学省 5.児童生徒の発達の支援
※4 文部科学省 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有職者会議アンケート結果まとめ
※5 村山拓. (2021). 米国におけるギフテッド教育に関する特性把握と対応をめぐる議論の特徴. 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系, 72, 191-197.
※6 翔和学園 ギフテッド