運筆は必要?運筆の目的やメリット、苦手な原因、教え方について解説
筆記具を自在に操るための運筆力は、文字学習のベースとなる能力のひとつです。また、運筆は字を書くためだけに身につけるものではなく、子どもの認知発達や、感情発達の支援にもつながります。この記事では、運筆の目的やその豊富なメリット、そして子どもに運筆を教える方法についてご紹介します。
運筆とは?
運筆とは、目と手の協応・鉛筆の握り・手指の力・手指をコントロールする力です。※1
運筆の目的
運筆は、字を認識し、理解する力を育てるだけではなく、子どもが自分の思考や感情を表現するための手段となります。さらに、子どもが世界を理解し、新しいものを発見するための手段でもあります。運筆を通じて、子どもは形や色、線の太さなどの視覚的要素を理解することができます。
運筆のメリット
運筆は、子どもの成長と学習にとって、とても大切な役割を果たします。そのメリットを5つ紹介します。
認知能力の向上
運筆は、子どもの認知能力を向上させます。文字を書くことで、形やパターン、順序を理解する力が育ちます。例えば、「あ」の文字を書くときも、その形状と線の順序を理解する必要がありますが、運筆を通してそれらを学ぶことができます。また、運筆は新しい単語や概念を覚えるのにも役立ちます。文字を書くことで、その単語の意味や使い方を覚えることにもつながります。
手先の器用さ
運筆は、子どもの手先の器用さを育むのに役立ちます。筆記具を正しく持ち、紙に文字を書いたり線や絵を描いたりすることは、手や指の筋肉を使う良いトレーニングになります。これは、ボタンを掛けたり、紐を結んだりするような日常生活の動作にもつながります。
創造力の発展
運筆を通して、子どもの創造力を引き出すこともできます。自分の考えや感情を文字にすることで、表現力が育まれます。例えば、子どもが絵を描いて、その絵についての説明をすることで、創造力と表現力の両方を育むことにもつながるのです。
読み書きのスキルを伸ばす
運筆の練習をして文字を書くことで、文字の形や機能を理解する力が身につきます。これは、将来的に本を読んだり、文章を書いたりするときに必要なスキルです。
集中力の向上
運筆は、子どもの集中力を鍛えます。一つ一つの文字を丁寧に書くことで、集中力が持続します。集中力は学校の授業やほかの活動に取り組むときにも重要なので、積極的に育みたい能力といえます。
運筆が苦手な原因
しっかり書こうと頑張っていても、筆圧の調整が難しかったり、字の大きさが整わなかったりする子どもも少なくありません。作業療法士の視点では、運筆が苦手となる主な原因として、下記の3つが挙げられています。
正しく握れていない
正しく握れていないと、筆圧の調整ができず、濃すぎたり薄すぎたりします。
手首が不安定
手首が安定していないと、運筆が安定せず、字が整いにくくなります。
空間をとらえることが苦手
空間を上手くとらえられないと、枠にあった字の大きさをイメージしたり、どの位置から書いたらよいか分からなかったりします。※2
子どもに運筆を教える方法
運筆を教える際には、以下のポイントを心掛けてみてください。
年齢や発達段階に合わせた内容に取り組む
なぐり書き、お絵描き、なぞり書き、迷路、点つなぎなど、遊び感覚で始められることからスタートし、徐々にステップアップした内容に変えていきます。※3
また、筆記具も年齢や発達段階に合わせて使いやすいものを用意するのがおすすめです。最初は色鉛筆やクレヨンから始め、徐々に鉛筆や筆に移行していきましょう。
運筆が苦手な原因に合わせた筆記具を使用する
筆圧が強く、芯がつぶれたり紙が破れたりするような場合は、芯が硬い鉛筆を使いましょう。逆に、筆圧が弱くて薄い線しか書けない場合は、芯が柔らかい鉛筆を使いましょう。また、番手(目の粗さ)が160~180程度の紙やすりを下敷き代わりにして練習するのもおすすめです。筆圧が弱い原因として手からの感覚を感じにくいことが考えられるので、160~180番程度の目が細かい紙やすりを敷くことで、動きを感じ取りやすくなります。空間を捉えることが苦手な場合は、補助線入りのノートで練習しましょう。さらに、字の書き始めに点を打つことで、どの位置から書けばよいのかわかりやすくなります。※2
正しい姿勢と握り方を教える
よい姿勢を保つには、腰を起こし、背筋を伸ばすことが大切です。筆記具の正しい握り方を教えることで、運筆の技術を向上させるとともに、手や指の疲れを軽減します。
特に、初めて鉛筆を握る子どもは、握り方が不適切になりがちです。親指と人差し指で鉛筆を持ち、中指で支えるという基本的な握り方を教えましょう。手首が不安な場合は、手首を起こして小指側を紙面に着けて書く練習をします。
必要に応じて、正しい持ち方を身につけるのに役立つ三角鉛筆や持ち方グリップを使いましょう。※2
鉛筆の持ち方については、こちらの動画も参考にしてください。
えんぴつのもちかた | トンボ鉛筆
巧緻性の基礎点数を必ずとる・クーピーや鉛筆の持ち方練習。小学校受験 | 小学校受験・知育・受験絵画制作 TSUBASA通信教育
楽しみながら学習する
運筆を楽しむことが、技術の向上につながります。絵を描いたり、お手紙を書いたりするなど、子どもが楽しめる遊びを取り入れましょう。
自己表現を奨励する
運筆は自己表現の手段であり、子どもが自分の感情や思考を表現することで、感情の認識と管理、そしてコミュニケーションスキルの発達にも役立ちます。子どもが自分自身を表現することを奨励し、楽しく取り組めるような声かけや環境づくりを心掛けましょう。
運筆は一見単純なようで、実は子どもの認知的・感情的な発達を促進する重要な工程です。子どもは運筆を通じて自己表現の力を育み、感情の認識と管理の力を向上させ、さらには自己信頼感を深めていきます。運筆は、子どもたち一人ひとりが自分自身を最大限に表現し、成長する力を引き出すことにもつながるのです。
参考資料
※1 長野県総合教育センター 通常の学級における文字学習入門期の丁寧な指導・支援を目指して
※2 一般社団法人熊本県作業療法士会 「書くことの苦手さ」を理解するために
※3 学研ステイフル 学力向上にもつながるってホント?小学校入学前に身につけたい『運筆力』