STEAM教育とは?特徴や必要とされる背景、日本の現状、おうちできることを紹介
最近、徐々に拡がりを見せているといわれるSTEAM教育。聞きなれない言葉かもしれませんが、現代の幼児教育にとってはとても重要な考え方です。現代の子どもたちは親世代のころとは少し違う学びが必要であるとされており、そうした教育を幼児期から進めることで、未来のイノベーションを担う存在になると考えられています。
STEAM教育とは
STEAM教育の定義
STEAM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Art/Arts)、数学(Mathematics)という5つの言葉の頭文字を組み合わせた教育概念です。科学、技術、工学、数学という4つの教育分野を総合的に捉えるSTEM教育にArts(A)が加わったものです。
STEAM教育の定義は、各国によってさまざまです。Aに関しては、デザインや感性などの要素のみと捉えることもあれば、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理などを含めて広く捉えることもあります。STEMにArtsが加わることで多面的見方が促され、さまざまな社会問題に対して新たな解決策を生み出せると考えられています。
文部科学省では、STEAMのAの範囲を後者の広い範囲で定義し、推進していくことが重要であるとしています。※1、2
STEM/STEAM教育の歴史
STEM人材の重要性を捉え、諸外国の中でもいち早くSTEM教育に取り組み始めて、現在もその中心となっているのはアメリカです。アメリカでは、2007年に制定された連邦法により、STEM人材育成や予算投入が進みました。2010年には、PCAST(大統領科学技術諮問会議)レポートによってSTEM教育の必要性が報告されていますが、2013年に行われた調査ではSTEM分野の人材不足が明らかとなりました。その結果、アメリカではSTEM教育やSTEM人材の育成へ向けて拍車がかかりました。学術界でもこの動向を後押しする発表が相次ぎ、科学教育領域における領域横断的な考え方が広がったのです。
また、イギリスでは2004年に発表された科学・イノベーションに関する基本計画を皮切りに、2009年にSTEM人材と教育についての提言がなされ、2011年にイノベーション推進のための政策発表、2014年にSTEM各分野の人材育成政策が進められました。
こうした世界での動きが進むにつれ、STEMからSTEAMへという考えも広まっています。前述の通り、Aは芸術・リベラルアーツ(Art/Arts)を示していますが、一般的によくイメージされる「芸術」とは少し異なります。言語や文化、生活、経済、法律や倫理といった私たちの暮らしに身近な事柄も横断させた捉え方ができるように、というのが現在のSTEAM教育です。
現在ではさらにSTEAMにロボット工学のRobotics(R)を加えた、STREAM教育も提唱されるようになりました。※1
STEAM教育が必要とされる背景
社会変化・人材育成
学校教育の現場では現在、各教科で学んだことを複合的に活かす「教科等横断的な学び」や教員の自由な指導の実現などを目指し、総合的な学習の時間を増やしています。
その背景にあるのは、2011年の第4次産業革命です。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータやロボットを用いた技術革新は、これまでの産業革命とは大きく異なり、社会全体や生活に大きな変化をもたらしています。
さらに近年、日本では第5次産業革命「Society5.0」が提唱されました。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合することにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会を目指すというものです。
日本でも少子高齢化や過疎化などさまざまな社会課題が生まれており、国民全体がこれらの課題解決に向けて本格的に取り組まなければいけない時期にあります。
こうした背景から、それまでの教育とは大きく方向性が変わり、「教わることが大事な教育」から、「新たなイノベーションを起こす人材の育成」が必要となったのです。自ら学び、考え、行動できる子どもを育てていかなければなりません。※1、2
STEAM教育への期待(学校教育に関して)
第5次産業革命によりもたらされるのは「超スマート社会」です。今後、日本のように労働力人口の減少が危惧される国では、不足する労働力を科学技術で補う必要があります。21世紀の子どもたちが大人になるころには、現代社会にはない職業も生まれているでしょう。つまり、科学技術を上手に使いこなし、今までにはない価値観や知識、技術を持った労働者こそが、近い将来必要とされるようになるわけです。
STEM/STEAM教育は、こうした社会に適応できる人材、新しいイノベーションを起こす人材を育成できると期待されています。※1、2
STEAM教育に対する日本の現状
ここで、日本におけるSTEAM教育の現状について見ていきましょう。
文部科学省は、2017年に改訂された学習指導要領において、カリキュラム・マネジメントの充実によって教科同士をつなぐ学習の重要性を示しています。さらに、「学校教育におけるSTEAM教育等の教科等横断的な学習の推進」を公表し、小中学校から高等学校までの教育課程における方針を示しています。※1、3
実際の日本の教育現場では、これまでの授業に加えて、科学技術やITスキルの育成、実験などの生徒の探究心を刺激するような新しい授業が求められています。しかし、そこには課題も多くあります。
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- 教師の指導力不足
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- 教育現場でのICT化の遅れ
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- 地域格差があり、教育環境もさまざまである
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- 数学(算数)や理科への苦手意識のある子どももいる
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- 音楽・美術などの芸術科目の授業数の削減が行われている
小さいころからIT技術に慣れ親しんでいる子どもに、教員側のスキルが追いついていないことも課題として挙げられます。特に、日本は諸外国に比べて教育現場でのICT化が遅れていることが指摘されています。2019年に閣議決定されたGIGAスクール構想によって、日本ではようやく小中学生に対し一人一台のタブレット端末が配布されることとなりましたが、まだ地域格差があることも事実です。また、STEAMのAを狭義の「芸術」と捉えると、日本の教育現場において音楽や美術といった教科の時間が減少傾向にあることも課題といえます。※3、4、5、6
幼児教育におけるSTEAM教材・プログラム
ここまでにご紹介したように、これからの学校教育に深く関わっているSTEAM教育ですが、幼児教育の取り組みにおいても注目されています。
幼児教育におけるSTEAM教材やプログラムの例として、論文を2本ご紹介します。
【論文紹介1】「幼児教育における「まちづくり」を題材とした STEAM 教材の開発」 日本科学教育学会第45回年会論文集(2021)より
4~5歳児の幼児を対象としたSTEAM教育として、子どもたちの身近な環境をテーマとした「まちづくり」を題材とした教材の開発に関する論文です。造形あそびをベースに、子どもたちが協同的に学ぶことができるよう工夫されており、さらに科学・技術・芸術・数学・工学に関係する体験を促すような仕組みが3つあります。
個人制作
さまざまな材料を使って子どもたちが作りたいものを作り、個人の希望を尊重して芸術・工学的な活動を支援します。制作物の構成や他人の作品との比較を通して、数学的な考え方に触れることができます。</
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制作物の配置
教員がマップを作成し、制作物を配置するように促します。地形的要素を追加して制約条件を設定し、現象の観察や解決のための工夫を行う機会を設けます。
「まち」の観察
できあがった「まち」をドローンやラジコンカーでさまざまな視点から観察し、子どもたちの達成感を共有すると同時に、テクノロジーに触れる機会を設けます。※7
【論文紹介2】「幼児期から児童期の子どもを対象とした健康教育に関する一考察 STEAM 教育を取り入れた食育プログラムの検討」 日本科学教育学会第45回年会論文集(2021)より
栄養素に関する食育教材として作成された、幼児向けの教材、小学校低学年向けの教材、小学校中学年向けの教材に関する論文です。各教材にはSTEAM教育の視点がすべて含まれています。特に、幼児向け教材はクイズ形式によって、「赤は体をつくるもとになる」「緑は体の調子を整える」「黄はエネルギーのもとになる」ということに気付き、理解を促す内容となっています。
STEAM教育の視点としては、食品には栄養としての役割があることを知る(Science:科学)、食品を3群に分類する、食事の必要量を把握する(Mathematics:数学)、食品の色と栄養素の分類が異なることに気付く(Arts:芸術・リベラルアーツ)、給食は複数の食品群の組み合わせであると知る(Technology:技術)といった要素が含まれていました。さらに、食品が3群で構成されていることを活用して給食の献立に関するクイズに答える(Engineering:工学)という活動も含まれていました。※8
おうちできるSTEAM教育
乳幼児に対するSTEAM教育が行われるのは、保育園や幼稚園だけではありません。自宅においてもSTEAM教育の観点で幼児教育を実施することができます。
おうちでできるSTEAM教育で大事にしたいことは、「子どもが夢中になれる環境をつくる」ということです。子どもが夢中になれるのは、「自分の好きなことをしているとき」です。子どもがやりたいことを自由にやらせてあげながら、親は見守る姿勢を大切にしましょう。
とはいえ、実際にSTEAM教育を受けてこなかった親世代では、なかなかイメージしにくいものかもしれません。STEAM教育の根底にあるのは「科目を横断した学問」なので、これは理科、これは算数というように、科目に捉われないことが重要です。
例えば、「自分のためのテーブルをつくろう」というテーマの場合、考えるべきことは多岐にわたります。
- 子ども用のテーブルはどのようなものがある? ⇒ 社会
- 今回のデザインはどうする? ⇒ 図工、美術
- 材質は何を使う? ⇒ 理科
- 材料の購入は予算内で収まる? ⇒ 算数
- どうやって作る? ⇒ 技術、家庭科
これらのことを夢中になって考えることができれば、子どもにとって「おうちでできるSTEAM教育」につながります。
では、どのようにして子どもが夢中になれる環境を作っていけばいいのか、具体的な例を挙げてご紹介します。※9,10
一日の行動にSTEAM教育を取り入れる
例1:朝の日課として植木の水やりをする
⇒観察力を育み、植物の生態を学ぶ:理科
例2:買い物に行き、野菜や食材を選ぶ
⇒産地による違いや、食材選択のコツなどを学ぶ:社会、家庭科
※親の質問も加えながら、子どもの選択を尊重する。また、子どもの疑問にはヒントを与えるだけにとどめ、「考える」ことを妨げないこと
例3:調理を手伝う
⇒食材の切り方、調味料の使い方などを学ぶ:家庭科、理科
※「なぜこのように切るのか」「どれくらい加熱すればよいか」など、子どもと一緒に考えながら調理を行う
このほか、お休みの日は大きな公園や動物園、博物館などに出かけるのもよいでしょう。子どもの五感を刺激し、好奇心や知識欲を育むことにつながります。
親が心がけるべきことは、「子どもの気付きをプラスする声かけ」です。子どもの質問に答えられないことがあっても、親が「一緒に調べる」ことで、子どもはたくさんの気付きを得ることができます。また、調べたことやわかったこと、実際に行動したことなどの記録を残し、振り返ることで新たな気付きにもつながります。
そしてもう一つ大切なのが、子どもが夢中になったことを「アウトプットする場」を設けることです。調べた、わかった、で終わりにせず、家族や友人の前で発表する機会を設け、それにより賛辞を得ることができれば、子どもの遊び=学びが定着し、さらなる学びへとつながっていきます。※9
参考資料
※1 大谷忠. (2021). STEM/STEAM 教育をどう考えればよいか―諸外国の動向と日本の現状を通して―. 科学教育研究, 45(2), 93-102.
※2 松松原憲治, 高阪将人. (2021). 我が国における教科等横断的な学びとしてのSTEM/STEAM教育の意義 各教科等の「見方・考え方」とBig Ideasに注目して. 科学教育研究, 45(2), 103-111.
※3 文部科学省 STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について
※4 文部科学省 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 第120回 資料3 STEAM教育への取り組み
※5 堀田龍也. (2020). 超スマート社会に向けた我が国の初等中等教育の課題と学会活動への期待. 教育情報研究, 35(3), 3-14.
※6 衆議院 義務教育の音楽・美術等の芸術科目における授業時限数の減少に関する質問主意書
※7 江草遼平, 竹中真希子. (2021). 幼児教育における「まちづくり」を題材としたSTEAM教材の開発. 日本科学教育学会年会論文集, 45, 629-630.
※8 石沢順子, 大貫麻美, 椎橋げんき, 奈良典子, 稲田結美, 佐々木玲子, 原口るみ. (2021). 幼児期から児童期の子どもを対象とした健康教育に関する一考察 STEAM教育を取り入れた食育プログラムの検討. 日本科学教育学会年会論文集, 45, 549-550.
※9 中島さち子. (2022). 知識ゼロからのSTEAM教育. 幻冬舎.
※10 デビッド・A・スーザ、トム・ピレッキ 胸組虎胤(訳). AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育. 幻冬舎メディアコンサルティング.