
「推理思考」「行動観察」はどんな試験? 人気幼児教室講師に聞く対策のコツ
小学校受験の試験内容には、大きく分けて「ペーパーテスト」「絵画・工作」「行動観察」「運動」の4つがあります。受験対策を行う幼児教室では、オリジナルの教材や身近な遊びを通して工夫を凝らした指導を行っています。
本記事では、都内の私立・国立小学校に多くの合格者を輩出する人気教室「にじいろ幼児教室」の代表・福井綾子先生に、上記のうち「ペーパーテスト(推理思考)」と「行動観察」の2つについて、具体的な試験内容を伺いました。
小学校受験では基本的に「文字」を読まない
「ペーパーテスト」とはその名のとおり、筆記試験のことです。「筆記」というと問題文を読んで解くイメージがありますが、小学校受験では先生が問題文を読み、子どもはそれを聞いて解いていくのが一般的です。
「小学校受験は基本的に、文字を読みません。先生のお話を聞いて、『始め!』で始めて『やめ!』でやめる流れです。周りが気になってきょろきょろしてしまう子もいると思いますが、お話を聞くときはよそ見をせず、手はひざの上に置きましょう。回答時間は1分〜◯分前後。先生の話を理解し、プリントをよく見て考えるのが大切です」
ペーパーテストには「言語」「推理思考」「数・図形」などの分野があり、学校によって出題内容や出題傾向も異なります。なかでも「推理思考」は、知識を覚えたりドリルを繰り返したりするだけでは身につきにくく、難易度が高い出題分野です。
まずは福井先生に、「推理思考」の内容について伺いました。
「ペーパーテスト(推理思考)」で問われるのは読解力
「ある私立小学校で出た推理思考問題には、このようなものがありました。
『(円錐、円柱、立方体、足つきグラスなどの絵があり)上と横に鏡があります。上の鏡に映ったときの図と、横の鏡に映ったときの図を選んで丸をつけましょう』

ここで問われるのは空間認識能力です。実生活でブロックや積み木のような立体的なものに触れた経験の多いお子さんは難なくクリアできるのですが、ペーパーだけで物事を教えられてきたお子さんのなかには『そもそも問題の意味がわからない』という子もいます。

空間認識能力を育むにあたって、ご家庭で取り入れるのにおすすめなのは、やはり積み木遊びですね。お城をつくって上から見たり、横から見てみたり。必ずしも積み木でなくても、お子さんの好きなものでいいんです。プラレールが好きなお子さんが寝そべって線路を眺めたり、お絵描きが好きなお子さんがいろいろな角度から見た絵を描いたりするのも、立派な経験になります」
さらに、福井先生によると「推理思考問題にもいろいろな種類があり、系列迷路や条件つきオセロ、条件つきすごろく、歯車の回転や、じゃんけんの概念を使って解くものもある」といいます。そのため、推理思考問題においてもっとも大切になるのは、「問題を聞く力」と「理解力」です。ペーパーテストの問題集は書店やインターネット上で市販されているほか、オリジナル教材を配布・販売する幼児教室も多いです。
積み木やおもちゃなどの具体物に触れつつ、こうした教材で事前にトレーニングを積み、問題に慣れておくとよいでしょう。
協調性、思いやり、子どもらしさ……「行動観察」でチェックされるのは家庭の様子
続いて、近年重視する学校が増えている「行動観察」についても福井先生に伺いました。
「行動観察」とは、グループに分かれてゲームやおもちゃで遊び、その際の行動や態度、コミュニケーションの様子などさまざまなポイントに注目して評価されるものです。「ノンペーパー校」と呼ばれる、そもそもペーパーテストがない小学校でよく出題される試験でもあります。
「ある小学校では、20人のグループに分けられて、さらに10人ずつの2チームに分かれ、『どんじゃんけん』をしました」
「どんじゃんけん」とは、2つのチームが一本線上の両端に別れて並び、先頭の人から線上を走ります。反対側から走ってきた相手チームと合流したところで「どーん!」とタッチして、じゃんけんをします。勝った人はそのまま進み、負けた人は自分のチームの最後尾に戻る、というゲームです。
ただし、この小学校では、本来のルールに以下の条件が追加されていました。
「赤組の子は赤色の帽子、白組は白い帽子をかぶっています。じゃんけんで勝ったら相手の帽子をもらってください。ゴールまで行ったら、ゴールについている洗濯バサミに相手の子の帽子を留めましょう。そうしたら自分のチームの最後尾に回り、同じことを繰り返しましょう」
この試験内容について、福井先生はいくつかのポイントがあると言います。
「この試験で見られるのは、まずルールを理解できているかどうか。そのため、先生のお話をよく聞く必要があるんですね。次に『じゃんけん』という、5~6歳の子どもに必要な経験をきちんとできているか。あとは、お友達と仲良く協力して取り組めるかどうかです。
たとえば、同じチームのお友達に『がんばって』と声を掛けるのも大事なことです。よくあるのが、じゃんけんをしたときに『ずる(後出し)しただろ!』などと揉めること。子どもたちってやっぱり『勝ち』にこだわるので、負けたくないんですよね。先生たちはそれを何も言わずに見ています。

私が自分の教室でよく伝えているのは、『どうぞ』の気持ちを忘れないようにしようね、ということです。行動観察で見られるのは『じゃんけんに勝つこと』ではないからですね。たとえば、お友達が間違えたことをしたと思ったら、間違いを教えてあげるのはOK。でもその後、『じゃあどうぞ』って言ってあげられたらお友達も嬉しいし、自分も嬉しいよね、と。
もちろん1番になって『やった~!』と喜ぶ姿も子どもらしくて大切だし、転んでしまった子に『大丈夫?』と声を掛けてあげる思いやりも大切。たとえば、うちの教室に通っていたある男の子は行動観察でできなかったことが多かったようで、お母さまも『もうだめだわ』と落ち込んでいらっしゃったのですが、結果は合格でした。彼はもともとのんびりした優しいお子さんで、試験でもお友達に優しくすることができていたんです」
福井先生によると、小学校受験は「何が原因で落ちたのか受かったのか、わからないことが大半」だといいます。ただ、行動観察で試験官の先生が見ているのは、お子さんの姿のその先にある「家庭の様子」なのだそうです。
「ご家庭で『お友達に優しくしなければいけないんだから、とにかく『どうぞ』と言いなさい』と押しつけられているお子さんは、並ぶとすぐにわかります。もちろん学校ごとの校風にもよりますが、見られているのは、お子さんがご家庭で愛情豊かに育てられているか、お父さん・お母さんが一緒に子育てすることの楽しさを生活のなかで伝えられているかどうかなんです」
幼児教室で合格のポイントを聞くのもおすすめ
「小学校受験は、不合格だった子が優れていないわけではありません。たまたま良い部分が切り取られて合格する子もいれば、反対に良くなかった部分が切り取られて残念な結果になってしまう子もいます。倍率の高い学校ならなおさら、結果に一喜一憂する必要はありません」
福井先生によると、小学校受験では、幼児期の子どもが普段“あたり前”に楽しんでいるような遊びや、季節の取り組みが題材になることが多いそうです。「ただ、その“あたり前”にハイレベルさが求められる感覚」だと福井先生は話します。たとえば、家庭で四季折々の花を飾っているか、ひな祭りやこどもの日に雛人形や兜飾りを飾っているか、お祝いに◯◯を食べているか……などが確認されるような問題もあるのだとか。
「何がポイントになるのかがわからないと、ご家庭ですべて対策するのは難しいかもしれません。その点、幼児教室では各試験のポイントを的確に教えてくださるので、そこで学んだことをご家庭で取り入れるのもおすすめです」
(文:原由希奈)