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レッジョ・エミリア・アプローチとは?世界が注目する幼児教育の特徴や効果、家庭での取り組む方法を紹介

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レッジョ・エミリア・アプローチは第二次世界大戦後にイタリアで始まった幼児教育であり、1991年にアメリカのニューズウィーク誌で取り上げられたのを機に、世界中で注目されるようになりました。好奇心や協同性、創造性などを育む効果が高く、GoogleやDisneyなどの企業に併設された幼児教育施設でも導入されています。この記事ではレッジョ・エミリア・アプローチについて、その概要や特徴、幼児教育における効果について解説します。

レッジョ・エミリア・アプローチとは

レッジョ・エミリア・アプローチは、イタリア北部にあるレッジョ・エミリア市で生まれた幼児教育に関する取り組みです。第二次世界大戦が終結したわずか6日後に、親たちの手によって建設された幼稚園から始まり、1964年に公立の幼児教育施設ができました。その後も大きく発展できたのは、レッジョ・エミリア市で教育主事などを務めた教育心理学者ローリス・マラグッツィ氏の功績が大きいとされています。※1

ローリス・マラグッツィ氏は、「子どもたちの100の言葉」というメタファーを用いて民主的な教育の基礎を構築し、レッジョ・エミリア・アプローチの理論的リーダーとなりました。※1
「子どもたちの100の言葉」は、レッジョ・エミリア・アプローチの理念である子どもの尊厳や子どもが持っている権利を示したものとされ、マラグッツィ氏がまとめた文献や展覧会のタイトルとしても用いられています。※2
レッジョ・エミリア市で実践されてきたユニークな保育の内容をまとめた「子どもたちの100 の言葉展」が各国で開かれたことで、レッジョ・エミリア・アプローチは世界中に広まりました。※1、3

「子どもたちの100の言葉」

「子どもたちの100の言葉」のもととなったマラグッツィ氏の詩「Invece il cento c’e」にはさまざまな日本語訳があります。イタリアの教育研究者である田辺敬子氏によって『でも、100はある』と題された日本語訳版を一部抜粋してご紹介します。※4

子どもには
100通りある。
(中略)
子どもには
100の言葉がある。
(それからもっともっともっと)
けれど99は奪われる。
学校や文化が
頭と体をばらばらにする。
(中略)
つまり
100なんかないと言う。
子どもは言う
でも、100はある。

マラグッツィ氏はこのメタファーを通して、子どもたちには教育や社会に主体的に参加する権利があると表明しています。※5

街ぐるみの民主的な教育の実践

子どもたちがもつ権利の表明と具体的な学びの姿については、レッジョ・エミリア市が掲げる指針にも示されています。2014年に同市の公立の幼児学校および保育所に通園する全家庭に配信された指針の冒頭には、「教育は、すべての人、すべての子どもの権利であり、それはコミュニティの責任である」と書かれており、コミュニティ全体が一丸となって乳幼児教育に取り組むことが明記されました。※3

神戸親和女子大学国際教育研究センターの森眞理氏は、レッジョ・エミリア・アプローチにおいて乳幼児教育施設は地域コミュニティの財産であり、現在および将来への投資として位置づけられているとしています。※3

幼稚園・保育所や学校だけで幼児教育を行うのではなく、地域に開いて街ぐるみで乳幼児教に取り組むことが、レッジョ・エミリア・アプローチの理念である民主的な教育の実践において重要なのです。

レッジョ・エミリア・アプローチの特徴

レッジョ・エミリア・アプローチには、次の4つの特徴があります。

  1. プロジェクト
  2. ドキュメンテーション
  3. 美術教育
  4. 環境

「プロジェクト」とは

レッジョ・エミリア・アプローチは、プロジェクトと呼ばれるテーマ発展型活動を中心として実践されます。子どもたちは対話を通してテーマに対する興味を発展させ、知識を深めたり、線画や粘土、立体などさまざまな方法で表現活動を行ったりします。※1
プロジェクトにかかる時間や道筋は明確に決められておらず、カリキュラムは非常に柔軟に設定されています。これは、常に新しい発見を続け試行錯誤しながら取り組むという子どもたちの潜在能力を妨げないためです。※1
実際には数か月にわたって行われ、長いものだと半年から1年ほどかけて行われることもあります。※6

プロジェクトでは4~5人の小グループで協同作業を行い、あるトピックについて掘り下げて研究します。トピックは子どもたち自身が決め、子ども同士あるいは子どもと保育者の対話を通して協同的に進められます。子ども一人ひとりの興味や意見を尊重し、対話や制作、創造的な体験を通して子どもたちの個性を引き出すことがプロジェクトの役割といえます。※7、8
秋草学園短期大学の鹿戸一範氏らがインタビューした公開保育の実例から、実践されたプロジェクトの一例をご紹介します。※7

「海のプロジェクト」~ 海から広がるあそび~

海に関わる遊びから派生し、海への興味やイメージを深めるプロジェクトに発展。4グループに分かれてさまざまな「海」を表現することになり、子どもたち同士で話し合ったり調べたりしながら制作に取り組んだ。制作物の展示や、制作物を活用した劇の発表にもつながった。

「ドキュメンテーション」とは

ドキュメンテーションとは、子どもの活動を写真や動画など視覚的な資料を用いて可視化することです。活動全体の流れや活動時の子どもの様子を保育者や保護者にも共有しやすく、研修やカリキュラムマネジメントにも活用されています。※9

プロジェクトの過程を写真・ビデオで記録するほか、保育者のメモや子どもたちへの聞き取りを録音したテープなどさまざまな形式があります。例えば、自画像を描くときは、鉛筆で描いて完成ではなく、さらに粘土で自分の顔を作り、そのときの様子を子ども自身の言葉で語ってもらいながら記録します。※5、10

また、子どもたちが制作したアート作品自体もドキュメンテーションととらえられています。制作展で子どもたちの作品とともに制作風景を記録した写真のパネルが飾られるのは、ドキュメンテーションを子どもたち自身や保護者、ときには地域住民に向けて展示公開することで、保育者の学びやご両親の参加を豊かにするためです。※5、7

「芸術教育」とは

レッジョ・エミリア・アプローチではさまざまな芸術教育に力を入れています。特に特徴的なのは、子どもの表現活動をサポートする「アトリエリスタ」の存在です。大学などで芸術を専攻した保育者や外部講師がアトリエリスタとして、ほかの保育者と子どもの創造的活動を支援します。※8
保育者が描いたお手本を掲示したり、正しい制作方法を押し付けたりすることは、子どもの想像力の妨げになるため推奨されていません。子どものもつイメージを大切にして、さまざまな描画材料を用意したり、対話を通して表現したいものを真摯に受け止めたりしながら、自由な制作活動を支援することが望ましいとされています。※10

造形活動のほか、音楽やダンスを交えた身体表現も取り入れられています。形として残らない身体表現も、前述した「ドキュメンテーション」で写真や映像として記録することで、活動の振り返りや子どもたちの表現への理解を深めるために役立てられています。※8
山梨県立大学の髙野牧子氏が2015年から2016年にかけてレッジョ・エミリア市内の幼児学校の視察を行ったなかで、実際に行われていた多様な芸術教育の一例をご紹介します。※8

「光と遊ぶ」というテーマの身体表現活動

週1回行われる、懐中電灯やLEDライト、プロジェクターなどを用いた活動。プロジェクターで投影した画像の前で白いマントを身に着けた子どもが踊ったり動いたりしながら、マントに映る光や自分の影で遊ぶ子どもが見られた。

「私の目」というテーマの制作

子どもたちの目元を撮影した写真とともに、それぞれが選んだ廃材を組み合わせて制作した目の造形を展示。3歳児クラスでは「私の鼻」をテーマにした展示物と、実際にさまざまな草のにおいをかいでみた記録が一緒に展示された。

「環境」とは

レッジョ・エミリア・アプローチを実践する施設では、中心に食堂やそれぞれの教室に隣接するオープンスペース「ピアッツァ(広場)」が設けられています。ピアッツァと連続して配置された「アトリエ」は創造的活動を促進する空間であり、制作活動に使うさまざまな素材や道具が準備されています。また、各教室には「ミニアトリエ」と呼ばれる小さな空間があり、子どもたちはいつでも自由に自分たちのイメージを表現することができるようになっています。※7

アトリエを運営するのは、前述した「アトリエリスタ」です。そのほかの人的な環境構成として、保育者・保護者・地域住民や行政を結びつける「ペタゴジスタ」といった役割が整備されていることもレッジョ・エミリア・アプローチの特徴といえます。※1

レッジョ・エミリア・アプローチとモンテッソーリ教育の違い

レッジョ・エミリア・アプローチは、子どもが主体者であり、芸術教育(アート)に力を入れている点でも「モンテッソーリ教育」と共通しています。その一方で、両者にはいくつかの違いもあります。

まず、レッジョ・エミリア・アプローチでは「対話」が重視されているように、人と人との関係性やそこから生じる感情の高まりが重要であるとしています。プロジェクトが数人単位のグループで行われることからも、個人よりもグループ単位での活動が多い、社会的な教育活動であることがわかります。※2
モンテッソーリ教育でもグループ活動は行われますが、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことを目的として掲げており、一人ひとりの子どもにフォーカスした教育内容が中心です。

モンテッソーリ教育には「日常生活の練習(運動)」「感覚教育」「言語教育」「算数教育」「文化」という5つの領域があり、それぞれについてカリキュラムや時間割が体系的に定められています。一方、レッジョ・エミリア・アプローチでは子どもたちの興味関心や対話を通して生み出され、プロジェクトへと発展するため、明確なカリキュラムがあらかじめ作られることはありません。※2
また、モンテッソーリ教育では「お仕事」を通して責任感や自立を養いますが、レッジョ・エミリア・アプローチにおいては、グループで行うプロジェクトへの参加や集団のなかでの権利、責任を持つことへの期待などを通して、責任感や役割意識を身につけていくのです。※2

レッジョ・エミリア・アプローチの効果

レッジョ・エミリア・アプローチによって育まれる能力の一例として、次のようなものが挙げられます。

  • 好奇心
  • 協同性
  • 創造性

例えば、プロジェクトのテーマを決める際には、必ず対話を通して子どもたちの興味を発展させます。テーマを大人が与えないことで、子どもたちの「好奇心」をふくらませる効果があると考えられます。
また、グループでコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めていく過程で、協同性」が育まれます。グループで知識を深め、協力しながら目標に向かって取り組むことは、責任感や自立心にもつながります。
さらに、レッジョ・エミリア・アプローチの特徴である芸術教育には、「創造性」を育む効果もあるといえます。ドキュメンテーションによる振り返りや、記録から着想を得てさらに発展させることによって、創造性はますます高まっていくとされています。

これらの能力は、いずれも近年重視されている「非認知能力」としても挙げられています。つまり、レッジョ・エミリア・アプローチは非認知能力の育成にも効果があるといえるのです。

レッジョ・エミリア・アプローチを家庭での取り組む方法

コロナ禍の影響でイタリア全土がロックダウンされたとき、マラグッツィ氏の死後に設立された有限会社レッジョ・チルドレンは、家庭で実践できる活動をホームページに掲載しました。「Athome with the Reggio Approach(家でレッジョ・エミリア・アプローチを)」と題し、次の5つの活動を発信したのです。※3

  1. 「待っている間の物語」……教師たちによって録音された物語選集
  2. 「家で一緒に遊ぼう」……各家庭で発明して遊べるゲームの助言と提案
  3. 「学校を家庭へ」……数学や描画に関する小さなプロジェクト
  4. 「天と地の幼児わらべ歌となぞなぞ」……多様な言語によるわらべ歌の選集
  5. 「家で本屋さん」……レッジョ・チルドレン本屋が選んだ本の紹介
    1. この5つの活動をそのままご家庭に取り入れるのは難しいかもしれませんが、主な要素に絞って取り入れることは可能です。例えば、各家庭で遊べるゲームや、数学や描画に関する小さなプロジェクトは家庭でも実践できます。実践にあたっては、お子さまとの対話を重視し、興味関心を引き出しながら活動を行うことで、レッジョ・エミリア・アプローチにおける「プロジェクト」の要素を取り入れることができます。また、お子さんと一緒に何らかの活動をしたときは、テーマを見つけたときの対話や活動内容をメモや写真として記録することで、「ドキュメンテーション」の要素を取り入れることもできます。

      レッジョ・エミリア・アプローチでは、子ども、保育者、保護者であるご両親がお互いに協力し合っている関係が特に重要であるとされています。※4
      このことからも、家庭においてレッジョ・エミリア・アプローチを取り入れる価値があるといえます。

      参考資料

      ※1 中坪史典. (2018). レッジョ・エミリアの視点から読み解く日本の幼児教育 : 子どもの主体性と保育者のかかわりに着目して. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 67, 9-16.
      ※2 アレッサンドラ・ミラーニ (著) 水沢透(訳). (2017). レッジョ・アプローチ 世界で最も注目される幼児教育. 文藝春秋.
      ※3 森眞理. (2021). コロナ禍におけるイタリアのレッジョ・エミリア市の乳幼児教育が示唆すること : 参加・対話・連帯に着目して. 国際教育研究センター紀要, 6, 1-10.
      ※4 Sydney Gurewitz Clemens 加藤正一(翻訳)レッジョ・エミリア・アプローチ入門—世界の最先端を行く幼児教育から学ぶ (研究所プロジェクト報告)
      ※5 濵田真一. (2011). Loris Malaguzzi の幼児教育思想に関する研究 : 「子どもたちの100 の言葉」というメタファーに焦点を当てて. 教育実践学研究 : 山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター研究紀要, 16, 51-57.
      ※6 杉浦英樹. (2004). プロジェクト・アプローチにおけるプロジェクトモデルの妥当性 : レッジョ・エミリアの理論と実践による検討. 上越教育大学研究紀要, 23:393-427.
      ※7 鹿戸一範、豊泉尚美、伊藤明芳 「日本の保育現場に生かすレッジョ・エミリアの幼児教育アプローチ ―プロジェクトの実践から―」
      ※8 高野牧子. (2017). レッジョ・エミリアの幼児教育における身体表現性. 山梨県立大学人間福祉学部紀要, 12, 83-94.
      ※9 橋川喜美代. (2022). 保育実践の質向上とドキュメンテーション: レッジョ・ エミリア市の 「聴き入ること」の教育をてがかりに. 関西福祉科学大学紀要, 26, 31-42.
      ※10 今井真理. (2006). 海外における幼児造形教育の思潮. 奈良学園大学紀要, 37, 97-105.

水島 なぎ

水島 なぎ

「書く・編む・正す ことばのよろず屋」を掲げる、フリーランスのライター・編集者。1985年生まれ、京都府在住。同志社大学文学部文化学科美学及び芸術学専攻卒。出版社で資格学習や学参分野のテキスト・問題集を企画編集していた経験をもとに、教育・育児、学術分野などのWebメディアの記事執筆や編集、書籍の編集を手がける。2017年に長女を出産した一児の母。

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