
幼児期に経験させたい「砂場遊び」の効果とは?効果をより高める方法や注意点についても解説
砂場遊びが好きな子どもは多いですが、「汚れるから……」「もっと体を動かしてほしいし……」と、砂場遊びを避けてしまっているお母さん・お父さんもいらっしゃるかもしれません。しかし近年、砂場遊びをはじめとする五感を使った遊びの重要性が注目されています。この記事では、砂場遊びの効果についてご紹介します。
そもそも「砂場」はいつ日本に普及した?
プレイグラウンドとしての砂場の起源は19世紀前半のドイツですが、日本に普及したきっかけはアメリカにあります。1885年、ボストンの貧民街に、子どもの健全な成長を願い全米で初となる砂場が造られました。当時、砂場で思いっきり遊んだ子どもたちは心身がリフレッシュして満足な表情で帰っていったといい、砂場の価値が明らかとなりました。
その後、アメリカでは「プレイグラウンド・ムーブメント(児童遊園設置運動)」という遊びを中心とした運動が広がりました。専門的な教育を受けた指導者が携わり、子どもが自由に遊べる場所(ブランコやシーソー、球技場、砂場など)が提供されるようになりました。
日本では1876年に日本初の幼稚園ができましたが、当時は大人主導の保育が行われており、大人が決めた遊びや時間割に従うことが主流でした。砂場もまだ存在していなかったのですが、1897年ごろに教育雑誌や研究誌などを通してアメリカのプレイグラウンド・ムーブメントの様子や遊び場の価値が日本にも伝えられたことで、砂場が設置されるようになったのです。
現在、保育園や幼稚園など子どもが通う幼児教育施設にはほぼ砂場が造られています。園庭がなく砂場が設置されていない園では、近くの公園にお散歩をして砂場遊びができるようにしているところもあります。しかしながら、そもそも公共の場である公園の砂場は減っているのが現状です。その理由としては、動物による糞害などの衛生面や、ガラス片などの混入により安心して遊べないといった環境面が挙げられます。※1、2
年齢別の砂場遊びの様子
子どもたちは実際に砂場でどのようにして遊んでいるのか、年齢別の砂場遊びの様子をみていきます。
0歳児
まずは砂場をじっくり観察するところから始まり、視覚や触覚、深部感覚が育まれて、徐々に砂の上でうまくバランスがとれるようになります。
1歳児
スコップやカップなどを使って、道具を使う楽しみをもちます。大人や他人の道具の使い方などを真似して、自分でも道具をうまく使いこなせるようになります。
幼児期
泥団子づくりやトンネルづくりなど、直接砂に触りながら遊ぶようになります。砂に水を含ませて固まりをつくり、最後に形が崩れないように乾いた砂をかけることを覚えます。
このように年齢が進むにつれて、遊びの内容は広がっていきます。※3
砂場遊びの効果
砂場遊びは、子どものさまざまな力を引き出すといわれています。ここでは砂場遊びから得られる7つの効果についてご紹介します。
感覚・物の操作
子どもはまず視覚・触覚から砂と関わっていきます。砂の色や形を見て、湿った砂なのか、乾いた砂なのかを判断します。砂を触ったり道具を使ったりして、手指の細やかな動きを変えながら遊びます。何回も繰り返し行うことで道具の使い方が上達し、徐々に細やかな作業ができるようになります。※1
情緒
砂は子どもの動きをそのまま受け止める性質があるため、砂に触れることは心の癒しとなります。心地よさが続き、1人でもずっと遊んでいられます。砂場では子どもたちが落ち着いて遊ぶ姿や、遊びに集中している姿が多くみられます。※1、3
想像力・創造力
子どものこれまでの経験や生活に基づいた想像が砂を通して表現されます。例えば、誕生日会やクリスマス会で出されたケーキや、旅行先で乗った電車や新幹線、テレビで見た怪獣などを思い起こし、砂で表現します。砂の形や状態からさらに想像を膨らませ、新たな創造につながることもあります。※1
言語・社会性
砂場遊びをしながら自分の気持ちや思いを話す子どもも多くみられます。低年齢のうちは物の取り合いなどでケンカになることもありますが、年齢を重ねると自然とコミュニケーションが取れるようになります。初めて会った人とも仲良くなり、一緒に協力して何かを作ったり、自分より年下の子どもに優しく対応したりと成長がみられます。また、砂場遊びを通して親にも変化があります。子どもの言葉をしっかり聞くことができた、子どもを支える言葉や行動が多くなったなどの結果も報告されています。※1、4、5
身体運動
砂場は不安定な場所であり、足をしっかり踏み込んで体を支える必要があるため、身体のバランス感覚が養われます。砂の上で立つ、しゃがむという動作はもちろん、水を運んだり、穴を掘ったり、道具を持ったりと、さまざまな動きを身に付けることができます。※1、6
認知・科学的態度
砂に触って砂の温度や湿り具合、硬さなどを知り、道具を使ってものの大小や上下左右などを知ります。また、砂をすくう動作を繰り返すことで、力の入れ具合や、道具を砂に入れる角度などを学びます。水の量を調整して泥団子を作ったり、砂で作った山が崩れないようにトンネルを掘ったりと、水・砂・道具の性質を知ることでさらに応用できるようになります。子どもは砂場で試行錯誤を繰り返しながら、興味関心を深め、さまざまなことを学んでいるのです。※1
自己肯定感
自分の思い描いた通りのものが完成したときや道具がうまく使えたときには、子どもは嬉しそうな表情や言葉を発します。逆に失敗したときも、工夫しながら何度も繰り返して完成させようとします。このような体験は子どもの忍耐力や集中力、自信や達成感、自己肯定感につながります。※1
砂場遊びの効果をより高めるには?
砂場遊びにはさまざまな効果がありますが、水や道具を用意したり、子どもの自発性を尊重したりすることで、その効果はさらに高まります。砂場で遊ぶときの注意点とあわせて、それぞれ解説します。
水や補助的玩具(道具)を用意する
砂場遊びをするときに水と道具の2つを用意することで、何も用意しない場合や水だけを用意する場合と比べ、より多様な遊びが生まれるという結果が報告されています。特に、スコップなどの道具を握る動作は、鉛筆の持ち方や文字を書くときの力の入れ加減の習得にもつながります。※3、5
遊びの道具は単純なものを用意しましょう。必ずしも専用の道具をそろえる必要はありません。水を入れるバケツがなければ、プリンの空き容器や空の牛乳パック、ペットボトルなど身近にあるもので十分です。子どもは遊びの天才です。それらを工夫しながらいろんな遊びを生み出します。※1
子どもの自発性と活動の自由を尊重する
砂場では子どもを自由に遊ばせることが大切です。子どもを放っておくという意味ではなく、話しかけすぎたり、指示しすぎたりしないということです。何より大切なのは、親が子どもと一緒に砂場遊びを楽しむことです。スマホばかり見て親が退屈そうにしていると、子どもは楽しめません。親は子どもの発見や創造の妨げにならないよう、ほどよい距離で関わりましょう。※1
砂場で遊ばせるときの注意点
公園など公共の場にある砂場で遊ばせるときは、危険なものがないかを親がきちんと確認したうえで遊ばせるようにしましょう。特に砂場の場合、裸足になって遊ぶ子どもも多くみられます。ガラスの破片や動物の糞などがないかあらかじめチェックしましょう。
また、低年齢の子どもは何でも口に入れたがります。口に砂を入れたり、道具をなめたりしないように注意を払いましょう。
子どもには汚れても大丈夫な服を着させ、思いっきり遊ばせてあげてください。遊び終わった後に着替えられるよう予備の服を用意したり、水や泥汚れに強い撥水のプレイウェアをあらかじめ着せたりしておくと安心です。
参考資料
※1 笠間浩幸. (2013). 遊びの力. チャイルド・サイエンスVOL.9.
※2 吉田美恵子. (2009). 豊かな環境と関わる中で育つ 感性 ―砂遊びを通して-. 長崎短期大学研究紀要, 21, 79-88.
※3 広島県私立幼稚園連盟 基調講演 演題「砂場から見る子どもの成長・発達と保育の課題」
※4 箕輪潤子. (2011). 砂場遊びに関する研究動向と今後の展望. 川村学園女子大学研究紀要, 22(1), 197-204.
※5 朴恩美, 中坪史典. (2009). 韓国と日本における幼児の砂遊びに関する研究の動向. 幼年教育研究年報, 31, 89-95.
※6 胡泰志, 加納章, 森野美央. (2021). 運動遊びとしての砂遊びの可能性. 比治山大学・比治山大学短期大学部教職課程研究, 7, 117-122.