グロースマインドセットとは?子育てへの活かし方やフィックストマインドセットについて解説
現代の子育てにおいて、グロースマインドセットは重要な概念となっています。この記事では、子どもの成長・発達におけるグロースマインドセットの役割を探り、固定観念を超えて子どもたちの可能性を最大限に引き出すための心理学的アプローチについて解説します。
グロースマインドセットとは
グロースマインドセット(Growth Mindset:しなやかマインドセット)は、スタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドゥエック博士によって提唱された概念です。※1
この考え方は、能力や知識は固定的ではなく、努力と経験によって伸ばすことができるという信念に基づいています。キャロル・S・ドゥエック博士の研究は、グロースマインドセットが学習や成果に与える影響を示しています。
グロースマインドセットを持つ人の特徴は以下の通りです。
- 能力の成長を信じる:能力や才能が固定されているのではなく、努力と経験によって発展すると信じています。
- 挑戦を受け入れる:新しい経験や困難な課題に挑戦することから逃れるのではなく、それらを成長の機会として受け入れます。
- 努力を重要視する:フィックスマインドセットを持つ人々が努力を能力の欠如とみなすのに対し、グロースマインドセットを持つ人々は努力を成長と学習において必要なものとして理解しています。
- フィードバックを受け入れる:他者からの批判や意見を成長のためのフィードバックとして受け入れ、自己改善の機会として活用します。
- 他人の成功を刺激と捉える:他人の成功を脅威ではなく、学びやモチベーションを得る源として捉えます。
グロースマインドセットを持つ人々は、一般的に柔軟で適応性が高く、困難な状況に直面しても前向きな態度を保ちやすい傾向があります。
フィックストマインドセットとは
グロースマインドセットの反対の概念は「フィックストマインドセット(Fixed Mindset:硬直マインドセット)」です。フィックストマインドセットは、能力や才能は生まれつき決まっており、変わることがないという考え方を指します。※1
このマインドセットを持つ人は、挑戦や困難に直面するとすぐに挫折しやすく、自分の能力には限界があると捉える傾向があります。フィックストマインドセットは、成長と学習の可能性を制限し、新しい経験や挑戦から逃避するような行動を促すことがあります。このマインドセットを持つ人々は以下のような特徴を持ちます。
- 能力は固定されているという信念:知能や才能は生まれつきのものであり、基本的に変わらないと信じています。自分や他人の能力を定められたものとみなし、それ以上の成長は期待しません。
- 挑戦を避ける傾向:新しい挑戦や困難な状況は、彼らの能力の限界を露呈する恐れがあるため、これらを避ける傾向があります。失敗を自身の不足や無能力の証として捉えるため、リスクを冒すことを避けます。
- 努力の価値を低く見る: 努力は能力が不足している証拠だと考えることがあります。もし本当に才能があれば、努力する必要はないという考えです。
- フィードバックや批判に対する抵抗:批判やフィードバックを個人的な攻撃や評価の低下として捉えがちです。その結果、自己改善の機会を逃すことがあります。
- 他人の成功に対する脅威の感じ方:他人の成功を、自分の能力不足を示すものとして見ることが多いです。自己肯定感に影響を及ぼし、他者との比較による嫉妬や劣等感を引き起こすことがあります。
フィックストマインドセットは、個人の成長、学習、および適応能力を制限する可能性があり、新しい経験や挑戦への取り組みを妨げる要因となり得ます。これに対して、グロースマインドセットは能力の成長と進化を信じ、挑戦や失敗を学習と成長の機会として捉えます。
グロースマインドセットを子育てに活かす
親が子どもに対して使用する言葉遣いや態度は、子どもの自己認識や学習態度に大きな影響を与えます。例えば、「あなたはとても賢い」とほめるよりも、「あなたは本当に一生懸命勉強したね」とほめることで、子どもは努力を価値あるものとして認識し、新しい挑戦に前向きになります。また、失敗を学習過程の一部として受け入れ、それを乗り越えることの重要性を教えることで、子どもは挑戦を恐れず、自己成長に向けて努力するようになります。
グロースマインドセットを活かした子どもを励ます声掛け
- 努力を賞賛する:「がんばっているね!」や「たくさん練習したね!」のように、結果ではなく、努力そのものを賞賛します。これにより、子どもは努力すること自体に価値を見出すようになります。
- プロセスを強調する:「どうやってそれを学んだの?」や「どの部分が一番難しかった?」など、学習過程や解決策を見つけるプロセスに焦点を当てます。これは子どもが困難に直面した際の思考プロセスを重視することを促します。
- 成長の可能性を伝える: 「まだできない」という言葉を「まだできない“だけ”」と言い換えることで、未来の可能性を示唆します。これにより、子どもは時間と努力によって成長できると理解します。
- 失敗を学習の機会として捉える: 子どもが失敗したときは、「失敗は成功のもと」という言葉を使い、この失敗から何を学べるかを話し合います。挑戦から逃げず、失敗を恐れない姿勢を育てます。
- 自己効力感を育てる: 「自分で解決策を考えてみよう」と促し、子どもが自分で問題を解決できる能力を持っていることを信じさせます。これは、子どもが自己効力感を育て、自分の力で物事に取り組む自信を持つのに役立ちます。
- 具体的なフィードバックをする: 子どもが何かを成し遂げたとき、単に「いいね!」と言うだけでなく、「この部分が特に良かったね、ここはどういう風に考えたの?」といった具体的なフィードバックをします。これは、子どもが自分の行動を振り返り、学習するのを助けます。
子どもにこれらの声掛けをすることで、自分の能力や知識を成長させることができるという信念を育て、困難に直面したときに持続的な努力をする意欲を養います。
チャレンジと困難への対応
子どもが挑戦や失敗に直面した際に、困難を乗り越える力を育てるための具体的な対応方法を紹介します。
例えば、子どもがテストで低い点数を取ったとき、「次はどうすればもっと良い点が取れるか一緒に考えよう」と前向きな対話をすることが効果的です。このプロセスでは、失敗を恥じるのではなく、学習と成長の機会として捉えることを重視します。子どもが自分の失敗から学び、それを乗り越える方法を見つけることが、自信と自己効力感を育てるうえで重要なのです。
年代別の対応方法
年代別の具体的な対応方法を見てみましょう。
乳幼児期の対応
遊びや日常の活動を通じて挑戦を奨励し、新しい技術習得に対する努力を賞賛しましょう。例えば、子どもが「塗り絵がうまくできない」と落ち込んだときに、「色の選び方が上手だね、練習すればもっと上手になるよ」と励ますのもよいでしょう。また、新しい遊びや活動に挑戦する際には、「難しくても大丈夫、一緒にやってみよう」とサポートすることで、挑戦への恐れを減らし、学習の楽しさを伝えます。
乳幼児期は、子どもの認識能力と自己像が形成される重要な時期です。この時期にグロースマインドセットを取り入れることで、幼児は新しいことを学ぶ喜びを知り、挑戦を楽しむことができます。また、幼児に対しても、努力を認識し小さな成功を誉めることで、自信と学習意欲を高めることができます。
学童期の対応
学校の課題や社会的な状況での努力と成長を支持し、困難に直面した際のポジティブな対処法を教えましょう。例えば、学校のプロジェクトで苦戦しているときには、「難しいね。一緒に考えよう、何回も試してみよう」と提案するのもよいでしょう。
この年齢では、子どもたちが自分の能力を伸ばすために必要な努力を理解し始めることが重要です。学習やスポーツなど、さまざまな分野で努力することの価値を強調します。
青年期(思春期)の対応
この時期には、自立と責任を促進し、個人的な目標設定においてグロースマインドセットを適用します。例えば、新しいスポーツに挑戦する際、「最初から完璧じゃなくても大丈夫、練習で上達するよ」と伝えます。
思春期の子どもたちは、社会的な評価に敏感になりがちです。したがって、失敗を恐れずに新しいことに挑戦すること、そして失敗から学ぶことの重要性を強調してあげましょう。親が子どもの小さな成功を認識し、その努力を賞賛することで、自己効力感を高め、困難な状況にも積極的に取り組む姿勢を育てます。
親自身の子育てにおけるグロースマインドセット
親自身のマインドセットも重要です。自分自身がフィックスマインドセットになっていないか確認し、変えることが、子育てにおけるグロースマインドセットの実践に不可欠です。自己反省と成長を促進するための方法として、親が自分の過去の失敗を子どもに話すのも有効です。
例えば、「私も最初は難しかったけど、努力で克服したよ」と、体験談を共有するのもよいでしょう。また、親が自分自身の成長と学習の経験を子どもと共有することで、子どもは困難に直面したときに前向きな態度で挑戦する重要性を学びます。
教育プログラムにおけるグロースマインドセットの役割
学校や教育プログラムでは、グロースマインドセットを促進することで、生徒たちのモチベーションを高め、学習への取り組みを改善できます。教育者は生徒の努力や進歩を称賛し、困難な課題に取り組む際のサポートを提供することで、生徒の自己効力感を高めましょう。また、間違いや失敗を学習の機会として捉え、生徒に対して前向きなフィードバックを提供することも大切です。
例えば、先生がクラスで「今日は新しい数学の概念を学びます。最初は難しいかもしれませんが、一緒に理解しましょう」と生徒に伝えることで、困難な学習内容にも前向きに取り組む姿勢を育てます。教育者が生徒の努力を認識し、過程を重視することで、生徒は挑戦することの価値を理解し、困難な課題にも臆することなく取り組むようになります。また、クラス内での協力的な学習環境を作り出し、生徒たちが互いに支え合いながら学ぶことを奨励することも、グロースマインドセットの促進に役立ちます。
グロースマインドセットを取り入れて子どもの可能性を引き出そう
グロースマインドセットを子育てや教育に取り入れることで、子どもたちは自分の能力を伸ばし、挑戦することを恐れなくなります。この考え方は、子どもたちが困難に直面したときにも前向きな態度を保つのに役立ちます。親がグロースマインドセットを意識して子どもたちの成長と学習をサポートすることで、子どもたちは自己肯定感を持ち、チャレンジを楽しむことを学びます。グロースマインドセットは、子どもたちの可能性を最大限に引き出し、より明るい未来へと導くために重要な概念です。
参考資料
※1 キャロル・S・ドゥエック(著). (2016). マインドセット「やればできる! 」の研究. 草思社.