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非認知能力とは?ペリー就学前プロジェクトや非認知能力を育てる方法、家庭での伸ばし方について解説

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非認知能力とは、自己肯定感や意欲、忍耐力や創造性など数値化が難しい能力であり、いま世界中で非常に注目されている能力です。経済協力開発機構(OECD)では、「社会情動的スキル」とも表現しています。
今回は、非認知能力と認知能力の違いや、非認知能力が注目されるきっかけとなったペリー就学前プロジェクト、さらにモンテッソーリ教育との関連性などをみていきましょう。

非認知能力とは

認知能力と非認知能力の違い

非認知能力とよく似た言葉に、認知能力があります。
認知能力は、IQや学力テストで数値化される能力のことをいいます。
一方、非認知能力は認知能力以外を指し、数値化は難しいとされています。近年、世界中で研究が行われており、その重要性が広く知られるようになりました。※1、2、3

非認知能力とは何か、具体的に挙げてみましょう。

  • 自己認識(やり抜く力、自己肯定感)
  • 意欲
  • 忍耐力
  • 自制心(自分の感情や行動をコントロールする力)
  • メタ認知ストラテジー(自分の状況を把握する力)
  • 社会的適性(リーダーシップ、コミュニケーション力)
  • 回復力と対処能力(立ち直る力、上手く対応する力)
  • 創造性
  • 性格的な特性(好奇心が強い、誠実さ、協調性)
  • など※2

非認知能力には、生まれながらに持っている気質や性格などの「自分に関する力」と、「人と関わる力」がありますが、いずれも人との関わりや環境などによって影響受けやすいものであることがわかります。※2

非認知能力を計測する研究は行われている

数値化が難しいことからも、非認知能力は「目には見えにくい力」といえます。現在は非認知能力を計測する確実な手段はありませんが、非認知能力を計測するゲームを新たに開発するなどの試みが行われています。今後さらに研究が進めば、非認知能力の計測ができるようになるかもしれません。※4、5

ヘックマンのペリー就学前プロジェクト

ペリー就学前プロジェクトとはどんな研究?

非認知能力の重要性が広く知られるようになった背景に、アメリカの経済学者ジェームズ・J・ヘックマンらの研究があります。この研究は幼少期の教育に注目した研究で、「ペリー就学前プロジェクト」と呼ばれています。研究対象は、低所得世帯であるアフリカ系アメリカ人家庭の、就学前(3~4歳)の子どもたちです。

この研究では毎日午前中に2時間半の授業を受けさせ、さらに週1回、午後に教師が家庭訪問し親への指導にあたりました。自発性、社会性を重視した教育を行い、その後教育を受けた子どもと受けなかった子どもの約40年間を追跡調査しました。

結果としては、プロジェクトに参加しなかった子どもたちとの学力の差は就学前には見られましたが、10歳ごろにはほとんど見られなくなっていました。ところがさらに追跡調査を行ったところ、40歳になった時点で両群を比較すると、プロジェクトに参加した子どものほうが高校の卒業率や持ち家率、収入がいずれも高く、生活保護受給率や犯罪率が低いという結果になりました。将来学歴や収入が高く、犯罪歴が低かったこともわかっています。※1

ペリー就学前プロジェクトで何が育まれたのか

なぜ就学前の幼児期に教育を受けた子どもたちが、将来高学歴や高収入を得る率が高いという結果が出たのでしょうか。
それは、この教育プロジェクトでは認知能力のほかに「非認知能力」が育まれたからです。教育を受けた子どもたちの間では、学習意欲の伸びが非常に高かったという結果も出ています。※1

社会で成功するためには、認知能力と非認知能力の両方が必要です。いくら学力が高くても、自分をコントロールできなかったり、他者とうまくコミュニケーションが取れなかったり、誠実さがなかったりすると、社会に出てもうまくいくはずがありません。※2

勉強したい、働きたいという意欲はさらなる知識や技術の習得につながり、最終的に高学歴や高収入を獲得する可能性が高くなります。このように非認知能力と認知能力は相互に影響を与えあって育まれます。非認知能力は社会でうまく生活していくために必要な力であることは間違いありません。※2

非認知能力を育てるためには

「非認知能力」を育てるために重要なのは、幼少期の愛着関係と、子どもの周囲の環境づくりです。

幼少期の愛着関係がカギ

幼少期は親子関係が密な時期、つまりお父さん・お母さんとの結びつきを強めることができる時期です。親子の結びつきが強いほど、子どもは安心感と自信を持ちます。安心できる場所がある子どもは将来、何らかの壁にぶつかったとしても、自分の力で乗り越えられる力を身に付けていけるでしょう。※3

非認知能力は遊びや体験のなかで育つ

特に幼児期の子どもの脳は柔軟でいろいろなことを吸収しやすく、環境からの影響を受けやすいといわれています。つまり、就学前の早い時期からの介入が重要とされているのです。※3
非認知能力は、認知能力のように子ども一人ひとり教えこんで身に付くものではありません。環境や人との関わりのなかで徐々に養われていくものです。※2、3
子どもを取り囲む環境の工夫や、子どもへの気配りは不可欠。子どもが自分で考え行動しやすい環境、子どもが興味を持ちもっと学びたいと思える環境を、お父さん・お母さんが整えていきましょう。※3

非認知能力とモンテッソーリ教育

非認知能力を紐解くカギとしてもう一つ、モンテッソーリ教育があります。

モンテッソーリ教育とは

モンテッソーリ教育は、医師であり教育家でもあるマリア・モンテッソーリ博士が考案したもので、子どもには自分を育てる力が備わっているという、「自己教育力」があることを前提とした教育法です。※6
具体的には、自己教育力が十分に発揮できる環境(物的環境・人的環境)が必要であり、「子ども」「教師(大人)」「環境」の3つのつながりが大切とする考え方です。モンテッソーリ教育は主に、就学前の幼児教育に活用されています。※6

モンテッソーリ教育を受けた子どもの特徴

北海道文教大学では、1999~2009年の約10年間にわたってモンテッソーリ教育を受けた延べ1,000人を調査し、その人の特徴について報告しています。一部を抜粋します。※7

  • 自分で判断し自分の責任で行動する
  • 自分で決めたことは最後までやり遂げる
  • 何でも意欲的、積極的、前向き
  • 生活のリズムを規則正しく実行する
  • 挨拶がきちんとできる、礼儀正しい
  • 他人の立場を考える、思いやりがある
  • 共同の活動では、誰とでも協力し合う
  • 解決能力がある
  • 小学校高学年から自立が目立ってくる
  • 自分がやりたいことがはっきりしている
  • など

これらの特徴は、前章の「非認知能力とは」で示した非認知能力の具体例とも共通していることがわかります。このことから、モンテッソーリ教育は非認知能力の育成に有効性があるといえます。※7

関連記事:モンテッソーリ教育とは?メリットや「おうちモンテッソーリ」、おすすめ教具4選を紹介

非認知能力を育む取り組みは幼稚園で実施されている

平成29年3月に10年ぶりに幼稚園教育要領が改訂され、平成30年度より施行されました。幼稚園教育における「環境を通して行う教育」という基本的な方向性は変わっていませんが、今回の改訂では、「幼稚園教育において育みたい資質・能力」として3つの柱が示されました。※8

● 豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになる「知識及び技能の基礎」
● 気付いたことやできるようになったことを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする「思考力・判断力・表現力等の基礎」
● 心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」

この改定の背景には、非認知能力の育成があると考えられています。
非認知能力は遊びや人との関わりを通して育まれますが、子どもの力だけで身に付けることは難しいため、大人がどう関わるかが重要となります。保育者だけでなく、お父さん・お母さんも子どもの状況を的確に把握し、工夫しながら導いていく必要があります。※9

多くの幼稚園では、非認知能力を育む取り組みが行われています。
いくつかの事例を挙げてみます。※9

事例①遊びこめる環境の整備
子どもたちがイメージしたことをすぐ実行できるように道具の種類を多くし、スペースの確保に努めている。必要以上に子どもに関わり過ぎないようにする。
効果:子どもが自発的に行動したり、積極的に質問したりする姿が見られるようになった、子ども同士のトラブルも自分たちで解決できるようになった。

事例②身近な自然を五感で感じてもらう
園庭に泥団子のコーナーを用意し、たくさんの木々を植えている。雨の日はカッパを着て外に出て、雨を感じる。
効果:いろいろな砂の感触を感じたり、実際に雨に触って確かめたりしながら、探求していく様子が見られた。

事例③玩具の工夫
布や紐、羊毛で作ったボールなどシンプルなおもちゃを配置している。保育者が手作りするものは子どもたちに作る過程や直す過程を見せている。
効果:子どもたちは保育者の作業を見ているので、身近なものを使ってイメージしたものをつくれるようになった。見立て遊びを通して想像性を発揮できるようになった。

事例④異年齢保育
学年の違う子と関わる機会を作っている。普段はおとなしい子どもをあえてリーダーにしてみる。自分を発揮する場面やきっかけを作る。
効果:末っ子や一人っ子の園児も、下の学年と関わることで我慢しなければいけないことが出てくる。コントロールする力や、人と関わる力が育った。自信が持てるようになった。挑戦したいという気持ちが出てきた。

事例⑤子どもたちがしたいことを、子どもたち自身で決めて行う
5歳児クラスにおいて、自分たちで育てたジャガイモでパーティを計画し、「何を作るか」「誰を招待するか」などを子どもたちで話し合う。
効果:話し合いを通して、自分の意見を言うだけでなくほかの子どもの意見を取り入れるなど、調整しながら行う姿が見られた。

非認知能力を家庭でも伸ばそう

このように、幼稚園では非認知能力を育むために、さまざまな取り組みが行われており、その根底には、環境の工夫や保育者の気配りが感じられます。子どもが主体的に活動できるように、大人は手を出し過ぎず見守ることが大切です。家庭においても同様に、お父さん・お母さんが環境や関わり方を工夫しながら、子どもの持つ非認知能力をさらに伸ばしていきましょう。

参考資料

※1 ジェームズ・J・ヘックマン(著). (2015). 幼児教育の経済学. 東洋経済新報社.
※2 中室牧子(著). (2015). 「学力」の経済学. ディスカヴァ―・トゥエンティワン.
※3 ポール・タフ(著). (2017). 私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む. 英治出版.
※4 若山昇, 草山太一, 竹内俊彦, 立野貴之, 山本美紀. (2020). 非認知的能力を計測する試み. CRET年報, 5.
※5 山本美紀, 草山太一, 竹内俊彦, 立野貴之, 若山昇. (2021). 非認知的能力に関する計測とデータ分析―認知的能力と非認知的能力についての考察― CRET年報, 6.
※6 公益財団法人才能開発教育研究財団 日本モンテッソーリ教育綜合研究所 モンテッソーリ教育とは
※7 金丸雅子. (2018) 非認知能力の育成におけるモンテッソーリ教育の有効性-幼稚園教育要領の改訂にあたって-. 北海道文教大学研究紀要, 42, 51-61.
※8 文部科学省 新幼稚園教育要領のポイント
※9 東京大学 Cedep2021年度文科省委託調査 非認知能力の育ちを支える幼児教育 園の取り組み事例集78

岡部 美由紀

岡部 美由紀

東京都在住、正看護師ライター。保健医療福祉分野をメインとしながらも、福祉分野(高齢者および幼稚園・保育園)でのインタビューも多数経験する。Webメディアのほか、医療や園教育等に関する書籍でも執筆。理系高校生と小学生を育てる2児の母。

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