小学校受験と
幼児教育の
専門メディア

公開日:

日本の幼児教育の現状は?その特徴や海外との比較、幼保小連携についても解説

はてなブックマーク LINE twitter facebook




現在の日本の幼児教育(小学校に入る前の子どもたちへの教育)の礎となっているのは、今から70年以上も前に制定された法律であることをご存知でしょうか。当時とは時代も変わり、教育や生活の水準が向上する反面、幼児教育が行われる環境も大きく変化してきました。海外における幼児教育と比較しながら、現在の日本の幼児教育についてみていきましょう。

日本の幼児教育とは

教育基本法とは

教育基本法は日本の教育における基本事項を定めた法律です。1947年に制定され、約60年後の2006年に改正されました。年月が経つにつれ、教育や生活の水準が向上する一方で、少子高齢化や都市化による核家族化も進んでいます。教育環境が大きく変化してきたことを受けて新しい時代にふさわしい教育改革が必要となり、2006年に初めて改正されることとなりました。

子どもの学ぶ意欲や家庭での教育力の低下が注目されており、教育に対する取り組み方の重要性がますます問われています。
教育基本法第1条には、教育の目的として「人格の完成」「国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」と記されています。つまり、教育とは人を育てることであるとわかります。

2006年の改正では、「教育の目標(第2条)」、「生涯学習の理念(第3条)」、「教育の機会均等(第4条)」が新設されました。そのほかにも新設された条文は数多くありますが、第11条においては「幼児期の教育」が新設され、小学校に入る前の子どもたちへの「幼児教育」が明記されたのです。
改正教育基本法第11条には、「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。」とあります。※1、2

幼児教育の意義と役割

文部科学省によると、幼児とは小学校就学前の子どもを意味し、幼児教育とは幼児が生活するすべての場において行われる教育の総称であるとしています。つまり、広義には保育所や幼稚園だけでなく、家庭や地域社会も含まれます。

幼児教育と聞くと、小学校入学準備のための教育と思われがちですが、そうではありません。また、受験などのために幼い時期から教育することで子どもに多くの知識やスキルを身につけさせる早期教育とも異なります。幼児教育は目先の結果のために行うものではなく、生涯にわたる人間形成の基礎を育む重要なものとなります。

幼児教育には、幼児の内面や気持ちに働きかけ、その子の良さや可能性を引き出してあげること、そしてそれらを伸ばしていくことが求められています。また、五感を使い、多様な活動や経験をして、意欲や好奇心、探求心など育むことも必要です。特に幼児期はさまざまなことを吸収しやすい時期です。知識や技能、思考力、判断力、表現力をはじめ、人間としてたくましく生きるための「生きる力」を育む大事な時期なのです。※3、4

日本の幼児教育の特徴

日本の幼児教育

日本の幼児教育が行われる主な施設

日本の幼児教育に関する主な施設として、保育所、幼稚園、認定こども園などがあります。2019年10月から幼児教育・保育の無償化が始まり、家庭における経済的負担は緩和されました。

幼児教育・保育の無償化は幼稚園、保育所、認定こども園、地域型保育などを利用する3歳から5歳までのすべての子どもを対象としています。利用料は無償化されますが、バス送迎や食材料、行事などにかかる費用については、これまでと同様に保護者が負担します(一部、家庭環境によりおやつなどの副食費が免除されるケースもあります)。

0歳から2歳までの子どもは、住民税非課税世帯のみ利用料が無償化となります(保育所等を利用する第2子は半額、第3子以降は無償)。※4
なお、自治体によっては0歳から2歳の第2子の保育料について所得制限なく無償化する方針を掲げているところや、給食費についても無償化にしている自治体もあります。今後も幼児教育・保育の無償化の幅が広がることが期待されています。

日本の幼児教育の特徴

日本の幼児教育の特徴として、主に次の7項目が挙げられます。

  1. 子どもの主体的な遊びや活動を重視している
  2. 保育者が子どもの遊びと生活を指導するとともに、自発性を引き出し、自立を促す
  3. 認知能力と非認知能力の両方の発達を重視し、子どもたちの心の安定を図る
  4. 具体的な教育方法は現場の保育者に委ねられている
    保育者が好き勝手に保育をするということではなく、計画(Plan)、実践(Do)、評価(Check)、対応や改善(Act)を踏まえた教育となっています。
  5. 幼児教育の研究と実践が深く結びついている
  6. 幼児教育の現場に近い人や現場の経験者が行政の指導者となっている
  7. 民間企業が充実している
    私立幼稚園も多く、民間企業が提供する幼児向け商品やサービス、教材などが豊富にあります。※4、5、6

海外と比較した日本の幼児教育

幼児教育の国際調査TALIS Starting Strong(OECD国際幼児教育・保育従事者調査)

OECD

続いて、日本の幼児教育と海外の幼児教育を比較してみましょう。
OECD(経済協力開発機構)は、2018年に幼児教育の保育者(園長・所長を含む)を対象とする初めての国際調査「TALIS Starting Strong」を行いました。日本を含めた9か国(チリ、デンマーク、ドイツ、イスラエル、アイスランド、日本、韓国、ノルウェー、トルコ)を対象として、保育者の実践内容や勤務環境、研修状況などを調査し、2019年10月に結果を公表しています。※7
この結果からわかったことをいくつかご紹介します。※8

保育者間の協同

日本の幼児教育に携わる保育者間の協働については、「子どもの育ちや生活の評価について話し合う」「特定の子どもや発達やニーズについて話し合う」「子どもの育ちや学び、生活の充実のための働きかけについて話し合う」「活動計画について話し合う」などの項目でほかの参加国よりもポイントが高く、保育者間の協働がよく行われているという結果がみられました。一方、「ほかの保育者の実践についてフィードバックを与える」という項目については参加国の中で最も低いことがわかりました。

保護者とのコミュニケーション

保護者とのコミュニケーションについては、「保護者会への出席や園だよりの配布など、公式なコミュニケーションを月1回以上行っている」と回答した割合が参加国の中でも最も高い結果となりました。また「保護者との日常的な会話や連絡を毎日行っている」と回答した割合は、ノルウェー、デンマークに次いで3番目に高く、日本の幼児教育においても保護者とのやり取りを大事にしていることがうかがえます。

保育者の仕事時間および保育者の満足度

保育者の仕事時間については、常勤の保育者の週当たりの仕事時間は50.4時間と、参加国の中で最も長いことがわかりました。特に、勤務年数が3年以下の常勤保育者が、3年を超えた保育者より勤務時間が長い傾向にありました。

そのうえで、職務に対する給与に満足している日本の保育者の割合は参加国中で2番目に低く、全体の満足度においても低い傾向にありました。

しかしながら、日本の保育者は専門性向上のための活動や研修に参加している割合が高く、研修などに対するニーズも高いことがわかっています。

仕事に対する満足度

保育者は、保護者または子どもからは高く評価されていると感じているものの、広く社会的に評価されているという感覚は低いという結果が出ています。
どの国においても、物的支援、財政的支援、保育者の不足が最も保育者のストレス要因となっているようです。

日本とスウェーデンの比較

スウェーデンの教育

「TALIS Starting Strong」の調査対象国には含まれていませんが、福祉国家として知られる北欧のスウェーデンでは、生涯学習の出発点として質の高い幼児教育が行われています。
スウェーデンの保育環境と日本の保育環境を比べてみましょう。

スウェーデン保育の歴史

スウェーデンは高福祉、高負担、男女平等の考えが進んでいる国です。保育に関しては日本と同様に幼稚園と保育園が存在していましたが、1975年に保育施設の一元化を目指す法律が施行されました。すべての子どもに525時間の無償保育を保障し、就学前学校に通う権利が与えられたのです。6歳児に関しては、基礎学校の就学前クラスに移行し、無償教育を行っています。なお、0歳児に対しては、両親の育児休業、保険制度の充実、短時間無償保育の適用などにより、基本的には家庭保育が行われています。
日本の幼児教育無償化が3歳から5歳を対象としている点と比べると、スウェーデンのほうが、無償保育がより充実していることがわかります。

スウェーデンの保育実践は、イタリアのレッジョ・エミリア市が行ってきた保育実践「レッジョ・エミリア・アプローチ」に大きな影響を受けています。具体的には、幼児の「できないこと」に注目する保育から「人間力(やろうとする、熱中していることなど)」に目を向け、保育者の意識改革を行いました。子どもの成長や学びを観察し、ドキュメンテーション(子どもの言葉や行動、保育者から見た様子などを記録したもの)を作成して振り返りと評価を行い、発展させることに重きを置いています。※9
日本にはレッジョ・エミリア・アプローチを導入している幼児教育施設はまだ少なく、保育方針にも違いがあることがうかがえます。

関連記事:レッジョ・エミリア・アプローチとは?世界が注目する幼児教育の特徴や効果、家庭での取り組む方法を紹介

スウェーデンの就学前学校の特徴

スウェーデンでは、保護者が園生活に深く関わっています。特に入園後すぐの時期は、子どもが園での生活に慣れるまで数日間は親子一緒に園で過ごすのが一般的です。日本にも保育時間を短縮する「慣らし保育」はありますが、入園式翌日からは一緒に登園することがなくなるケースが大半です。※9

また、スウェーデンの保育環境にはいくつかの特徴があります。
まずは、保育スペースの広さです。保育室は年齢ごとに分かれていてそれぞれが3部屋ほどもあります。年齢ごとに保育室に玄関や着替えスペース、遊びスペース、休息スペースがあるのです。また、日本の場合は保育室で給食を食べることが多いですが、スウェーデンは食事するためのスペースが別にあります。
自然物との触れ合いも大切にしており、保育施設の近くには森があったり、アトリエにも制作の材料として葉っぱや枝などが豊富に備えてあったりします。
さらに、スウェーデンでは保育に携わる人的環境も豊かです。例えば、5 歳児クラスの場合、スウェーデンでは20名程度の幼児に対して保育者3人が必要とされています。※9
一方、日本の配置基準は自治体によっても異なりますが、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第33条によると、保育所においては満4歳以上の幼児約30名につき保育士は1人以上とされています。※10

幼保小連携とは?幼児教育と小学校教育をつなぐ

幼保小連携とは

ここからは、日本の幼児教育において近年重視されている「幼保小連携」について解説します。
小学校に入学した子どもが授業中に座っていられなかったり、話を聞けなかったり、別行動をしてしまったりと、小学校の学習や生活になじめないことがあります(小1プロブレム)。幼稚園や保育園での生活から小学校での生活にスムーズに移行するために、お互いの環境の違いを認識し、理解を深める必要があります。こうした理由から、幼稚園、保育園、小学校が連携する「幼保小連携」が求められているのです。

幼保小連携活動が子どもに与える影響をいくつか挙げます。

  • 小学生は(園児よりも)年上であるという自覚を持ち、自分の成長を感じられる
  • 園児は小学生と接することで小学校入学への不安が減り、小学生になることの期待が高まる
  • それぞれの発達段階に応じた思いやりの気持ちが育まれる

また、幼保小連携は子どもだけでなく、保護者、保育者、教師にとってもメリットがあります。

  • PTAや地区の活動を通して保護者同士のつながりができる
  • 教員、保育者との情報交換の場となる

保育参観や授業参観を通して子どもの学びの連続性を認識できたり、指導や教材などの共通点・相違点を把握できたりすることも、幼保小連携の重要な成果といえます。※11

幼保小の架け橋プログラム

さらに、文部科学省では令和4年度からの約3年、モデル地域における実践と並行して「幼保小の架け橋プログラム」を推進していくこととしています。
幼児期は遊びを通して学習の基盤を育む時期です。小学校では幼児期で学んだことをさらに伸ばしていく必要があり、そのためにも幼児教育と小学校教育を円滑につなぐことが鍵となります。

5歳児から小学校1年生にかけての2年間は「架け橋期」と呼ばれており、生涯にわたる学びや生活の基盤をつくる重要な時期です。小学校に入ると、教科が分けられ学ぶ内容や時間も設定されます。集団での遊びを通して学ぶ形式から、小学校では机に向かって先生の話を聞きながら学ぶ形式になるなど、環境も大きく変わります。子どもにとって小学校入学は大きなハードルであり、ここでつまずいてしまうと、小学校生活が嫌になって不登校につながる可能性もあります。

架け橋期の教育を充実させるには、幼保小の連携だけでなく、家庭や地域などの連携も重要となります。幼保小の合同会議の定期的な開催や、コミュニティ・スクールなどを活用した保護者や地域住民の参画を得る仕組みづくりなど、これからもさまざまな取り組みが進められることでしょう。※12、13

幼児教育と小学校教育の特徴とは?

文部科学省では幼児教育と小学校教育の接続を図るために、幼保小の相互理解を促進するのに役立つ資料を公開しています。主に幼保小の関係者を対象として、幼児期の遊びを通した学びと小学校の各教科等の学習のつながりを見える化し、幼児教育と小学校教育の円滑な接続に寄与することがねらいです。幼児教育と小学校教育の特徴を、教育課程等や教育方法などの面から見てみましょう。※14

幼児教育(幼稚園・保育所・認定こども園)

教育の目標 「感じる」「気付く」「考える」「工夫する」「興味をもつ」「関わる」等の経験を重視
教育の方法等 遊びを通した総合的な指導
幼稚園教育要領等 5つの領域からなる「ねらい」と「内容」(健康・人間関係・環境・言葉・表現)

小学校教育

教育の目標 「~できるようになる」「わかるようになる」等の目標への到達度を重視
教育の方法等 各教科等の目標・内容に沿って選択された教材による授業
小学校学習指導要領 各教科等における目標及び内容(国語科・社会科・算数科・理科・生活科・音楽科・図画工作科・家庭科・体育科・外国語科・道徳科・外国語活動・総合的な学習の時間・特別活動)

続いて、各教科のうち国語科と算数科に注目し、幼児教育と小学校教育それぞれの特徴を解説します。※15、16

国語科

幼児期の遊びを通した学び

言葉の楽しさ: 遊びや日常生活のなかで経験したさまざまな感動を言葉で共有することで、話すことや聞くことの楽しさを実感します。
表現力の向上: 保育者や友達とのコミュニケーションを通じて、絵本や物語への親しみを深め、豊かな言葉遣いや表現力を身につけます。
文字への興味: 遊びや生活のなかで自然と文字への親しみや興味が育ちます。具体的には、自分の考えを伝えたり、友達の考えを聞いたりする過程を通して、文字や読み書きに関心を持つようになります。

小学校の国語科教育の特徴

目的: 小学校教育の国語科は、生徒が言葉を通じて世界を見る方法や考える方法を学び、言葉を正確に理解し、適切に表現できる資質や能力を育成することを目的としています。
発展: 幼児期に培われた言葉に対する感覚や表現力を活かしながら、小学校では「話すこと・聞くこと」に加えて「書くこと・読むこと」といった文字言語の学習が加わります。
教材と学習活動: 絵本や紙芝居などの児童文化財を活用し、幼児期の学びを生かしながら学習環境を工夫します。言葉の教育は、国語科のみならず、すべての学習の基礎となります。

算数科

幼児期の遊びを通した学び

多様な体験: 幼児期の子どもたちは、遊びや日常生活のなかで数や量、形を自然に学びます。これらの活動は、数学的な概念や言語の自然な獲得をサポートします。
実践的な学習: 子どもたちは、遊びのなかで具体的な物を使って数を数えたり、物の大きさや量を比較したりします。このような実践は、数学的概念を理解するための直感的な基礎を築きます。
形と空間の探求: 積み木や空き箱などを使って形を作る遊びは、形や空間に関する感覚を養います。子どもたちはこれらの活動を通じて、図形の性質や関係を無意識のうちに学習します。
生活との関連: 時計や携帯電話など日常生活で見かける物への関心から、時間や数字への理解が深まります。これは、数学的概念を実生活に応用する能力へと発展します。

小学校の算数科の特徴

目的: 小学校教育の算数科では、「数学的な見方・考え方」を通じて、子どもたちの数学に対する資質や能力を育てます。実生活との密接な関わりを重視し、実用的な問題解決能力の基礎を形成します。
基礎: 幼児期における日常生活や遊びのなかでの数学的な体験が、小学校での学習の基盤となります。例えば、数を数えたり、物の大きさを比較したりするシンプルな活動が、数と計算の理解へとつながります。
図形の理解: 子どもたちは、遊びを通じて図形の特徴を自然と学びます。例えば、坂道でボールを転がしたり、積み木で遊んだりすることで、図形に関する基本的な性質や空間認識能力が発達します。

参考資料

※1 文部科学省 教育基本法
※2 文部科学省 教育基本法案について
※3 文部科学省 幼児教育の意義及び役割
※4 文部科学省 日本の保育・幼児教育の特質と可能性
※5 文部科学省 日本の幼児教育、7つの特徴
※6 お茶の水女子大学子ども発達教育センター 『幼児教育ハンドブック』
※7 国立教育政策研究所 教育改革国際シンポジウム 幼児教育・保育の国際比較 OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018の結果から
※9 本山ひふみ. (2016). 幼児期の学びに関する日本と北欧の比較研究. 愛知淑徳大学論集, 6, 77-87
※10 厚生労働省 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準
※11 文部科学省 資料4 保幼小連携の成果と課題(調査研究事業報告書等より)
※12 文部科学省 幼保小の架け橋プログラム
※13 文部科学省 学びや生活の基盤をつくる幼児教育と小学校教育の接続について~幼保小の協働による架け橋期の教育の充実~【概要】
※14 文部科学省 幼児教育と小学校教育がつながるってどういうこと? はじめに
※15 文部科学省 幼児教育と小学校教育がつながるってどういうこと? 国語科
※16 文部科学省 幼児教育と小学校教育がつながるってどういうこと? 算数科

岡部 美由紀

岡部 美由紀

東京都在住、正看護師ライター。保健医療福祉分野をメインとしながらも、福祉分野(高齢者および幼稚園・保育園)でのインタビューも多数経験する。Webメディアのほか、医療や園教育等に関する書籍でも執筆。理系高校生と小学生を育てる2児の母。

Read more