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マシュマロ・テスト
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マシュマロ・テストは間違っていた?自制心が将来にもたらす影響や最新の研究における解釈について解説

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自制心は、瞬間の欲求を抑え、長期的な目標に向かって努力を続ける能力であり、人生において重要な役割を果たします。この能力を測る方法として、1960年代にスタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェルによって行われたマシュマロ・テストがあります。マシュマロ・テストは幅広い分野に影響を与え、単に子どもがお菓子を待てるかどうかだけでなく、自制心が将来の成功に及ぼす影響についての洞察が可能となりました。しかし、後の研究や批判によると、マシュマロ・テストとその結論に対して考慮すべきこともあると指摘されています。この記事では、マシュマロ・テストの概要とその後に行われた研究について紹介します。

マシュマロ・テストとは?

マシュマロ・テストは、1960年代にスタンフォード大学で心理学者ウォルター・ミシェルによって始められた一連の実験です。このテストは、子どもがもつ自制心と、後の成功との関係を探るために設計されました。研究の目的は、遅延報酬を待つ能力が、子どもの将来の学業成績、社会的行動、さらには健康にまで影響を及ぼすかどうかを調べることでした。

実験では、4歳から6歳の子どもたちを個別に部屋に入れ、テーブルの上にマシュマロ1つを置きました。研究者は子どもに対して、研究者が部屋を出ている15分の間、マシュマロを食べずに待つことができれば、戻ってきたときにもう1つ追加でマシュマロをもらえることを説明しました。しかし、子どもが待てずにマシュマロを食べてしまった場合、追加の報酬はもらえません。この状況は、子どもたちの自制心を試すものでした。

マシュマロ・テストの実際の様子は、こちらの動画でもご覧いただけます。

マシュマロ・テストの結果

ウォルター・ミシェルが行ったマシュマロ・テストによると、長期にわたって子どもたちを追跡調査した結果、待つことができた子どもたちは待てなかった子どもたちに比べて大学進学適性試験の点数が良く、青年期の社会的・認知的機能の評価が高かったことがわかりました。

また、長く待てた人は27歳~32歳にかけて肥満指数が低く、自尊心が高く、目標を効果的に追求し、欲求不満やストレスに上手に対処できることもわかりました。さらに中年期には、一貫して待つことのできた人(先延ばしにする能力の高い人)とできなかった人(先延ばしにする能力の低い)人では、中毒や肥満と結びついた領域の脳スキャン画像ではっきりとした違いが見られました。※1

マシュマロ・テストの影響

マシュマロ・テストは、自己制御が個人の成功に重要であることを示す象徴的な実験となりました。このテストは、心理学だけでなく、教育学や経済学のほか、親子関係の指導など幅広い分野に影響を与えています。自制心の重要性を強調し、子どもの自己制御能力をいかに育てるかについての議論を促しました。

なぜ自制心が重要なのか?

自制心は非認知能力の中でも重要な力の一つで、衝動的な行動を抑え、長期的な目標に向けて努力を続けるために必要な能力です。子どものころに培われた自制心は、成人してからの生活の質に大きな影響を与えます。

  • 健康的な生活習慣の維持
  • 良好な人間関係の構築
  • 学業や職業上の成功 など

このように、自制心はさまざまな局面で重要な役割を果たします。マシュマロ・テストは、自制心や自己制御能力を測る方法のひとつであり、自制心がどのように子どもの将来を形作るかを示しています。

関連記事:非認知能力とは?ペリー就学前プロジェクトや非認知能力を育てる方法、家庭での伸ばし方について解説

自制心を高めるには?

子どもの自制心を高めるためには、日常生活のなかでも実践できるさまざまな方法があります。自制心を育むためのアプローチを3つご紹介します。

気をそらす

直面している誘惑から視線を逸らすことにより、衝動を抑える方法です。マシュマロ・テストにおいても、マシュマロを直接見ないことで食べたい気持ちを我慢する子どもたちが見られました。この事実は、誘惑から気をそらすことが自制心に直接的に寄与することを示しています。「注意制御」は、目の前の誘惑に集中するのではなく、ほかのことに注意を向けることで能動的に衝動を管理します。※1

If Then プランニング(もし~したら、そのときには~)

特定の状況と行動の組み合わせを事前に計画することにより、自動的に適切な行動が取れるようにする方法です。これは行動心理学における「実装意図」という概念に基づいており、特定のシグナルが現れた際にあらかじめ決めておいた行動を実行することで、目標達成への道を容易にします。この方法は、自己管理能力を高め、より良い意思決定を促進するのに有効です。※1

例えば、「もし勉強をサボりたくなったら、5分だけタブレットを見てから勉強に戻る」のようなプランをあらかじめ決めておくことで、誘惑に負けず自己制御しやすくなります。

壁に止まっているハエのように(フライ・オン・ザ・ウォール)

「自分と距離を置いた」視点に立ち、自分自身を客観的に見ることで、冷静かつ合理的な判断ができるようになることを目指す方法です。壁に止まっているハエの視点をイメージすることから、このように呼ばれています。心理学における「自己隔離」とも関連し、自分の感情や衝動から一歩引いて、状況をより客観的に評価します。これにより、感情に流されることなく、より効果的な自己制御が可能になります。※1

マシュマロ・テストは間違っていた?最新の研究における議論

マシュマロ・テストに関する議論

マシュマロ・テストに関する議論は、結果の解釈や一般化も含めて多岐にわたります。ウォルター・ミシェルによって始められたこのテストは、子どもの自制心(即時の報酬を遅延する能力)を測ることで、将来の成功を予測できるという見解を示しました。しかし、後の研究や批判は、マシュマロ・テストとその結論に対していくつかの重要な指摘をしています。マシュマロ・テストに影響を与えるとされている要因を2つ挙げます。

社会経済的要因の影響

後の研究により、マシュマロ・テストの結果が子どもの社会経済的背景に大きく影響されることが明らかにされました。具体的には、裕福な家庭の子どもたちは将来への信頼が持てるため、報酬を待つことができる傾向にあります。この発見は、自制心だけでなく、環境が人の行動や選択に影響を与えることを示しています。

文化的背景の考慮

文化的背景も、マシュマロ・テストの結果に影響を及ぼす要因のひとつです。異なる文化では、即時報酬と遅延報酬の価値が異なるため、テストの結果を一般化することの難しさが指摘されています。この観点から、自制心の発達と評価には文化的な相違を考慮する必要があります。

マシュマロ・テストに対する批判的な研究

マシュマロ・テストに対する批判的な見解を示した代表的な研究として、2018年に行われた大規模な再評価研究があります。この研究は、ニューヨーク大学のタイラー・ワッツらによって行われ、Psychological Science誌に2018年に発表されました。ウォルター・ミシェルが行ったオリジナルのマシュマロ・テストの結果に対して、より大きなサンプルサイズと異なる社会経済的背景を持つ子どもたちを対象としています。※2

ワッツらの研究チームは、900人以上の子どもたちを対象にマシュマロ・テストを実施し、その結果を分析しました。子どもたちの家庭の社会経済的地位(SES)と、彼らの自制心との関係を詳細に調べているのが特徴です。※2

研究の結果、社会経済的地位が子どもの自制心のテスト結果に大きく影響することを示しました。具体的には、社会経済的地位が低い家庭の子どもたちがマシュマロ・テストで報酬を待つことができたとしても、その自制心が将来の学業成績や行動の問題に正の影響を与えるという強い関連性は見られませんでした。※2

さらに、この研究はマシュマロ・テストの結果と子どもたちの将来の生活の質や学業・職業上の成功との間にあるとされた強い相関関係を相対化しました。社会経済的地位を考慮に入れた場合、自制心と将来の生活の質や成功との間にある相関関係は弱まります。これは、将来の生活の質や成功を決定づけるのは自制心だけではないことを示唆しています。※2

もちろん、ワッツらが行ったこの研究は、自制心が子どもの将来の生活の質や成功に影響を与える一因であることを否定するものではありません。しかし、子どもの行動や将来の成果に影響を与える要因は多岐にわたり、自制心だけでなく社会経済的背景も重要な役割を果たすということを強調しています。この結果から、自制心を測るテストやその他の発達指標を評価する際には、社会経済的背景や文化的背景を含め、子どもたちを取り巻く幅広い背景を考慮に入れる必要があるという議論が提起されました。このことは、マシュマロ・テストとその結果の解釈を再考することを促します。また、子どもの将来を予測する際には、より複雑で多面的なアプローチが求められることが強調されています。※2

マシュマロ・テストの日本における研究

マシュマロ・テストの日本における実証研究は少ないですが、2022年には、京都大学の齊藤智教授らの研究がPsychological Science誌に掲載されました。すぐに得られる小さな報酬を我慢し、将来得られる大きな報酬を優先することを「満足遅延」といいます。齊藤教授らの研究によると、幼児期の「満足遅延」は文化に特有の「待つ」習慣によって支えられていることが明らかにされました。※3

日本では、幼稚園、保育所、小学校、そして家庭において、食事を始める前に全員がそろって「いただきます」と言う習慣があります。齊藤教授らの研究では、このような食事の文化のなかで育った日本の子どもたちは、食べ物を使った満足遅延のテストにおいて、より長い時間を待てると予測されました。※3

この仮説を検証するために、日本とアメリカの子どもたちを対象として、包装されたプレゼントを使ったギフト条件と、食べ物を使った条件によって報酬を待つ時間を比較しました。日本の子どもたちにはプレゼントの開封を待つ習慣はないとされる一方、出された食べ物を食べるのを待つ習慣は身についていると予想されます。結果は予想された通り、日本の子どもたちは、食べ物条件の場合に報酬を待つ割合がギフト条件よりも高かったことがわかりました。一方でアメリカの子どもたちは、ギフト条件の場合に報酬を待つ割合が食べ物条件よりも高いことがわかりました。その背景としては、アメリカの子どもたちは誕生日にゲストが持ってきてくれたプレゼントの開封をパーティーの後まで待ったり、何日も前からクリスマスツリーの下に用意されたプレゼントを楽しみに待ったりする経験が多いことが考えられます。※3

齊藤教授らの研究は、子どもの満足遅延は単に個人の認知能力に依存するだけでなく、個人を取り巻く社会、集団、文化によっても大きく影響されていることを示唆しています。つまり、子どもたちの周囲の環境が教育や福祉の文脈でどのように構築されるかが、子どもの満足遅延能力に影響を与えているといえます。※3

マシュマロ・テストの解釈にはさまざまな背景を考慮する必要がある

マシュマロ・テストは、自制心に関する議論を深め、その重要性を世に知らしめました。しかし、その結果の解釈には慎重さが求められ、自制心の発達や評価には多様な要因が関与することを認識する必要があります。自制心は将来の生活の質を向上したり、学業・職業において成功したりするためには重要な要素のひとつですが、それを育む過程では個人差、文化的背景、社会経済的状況など、幅広い要因を考慮することが大切です。

参考資料

※1 ウォルター・ ミシェル (著). (2015). マシュマロ・テスト:成功する子・しない子. 早川書房.
※2 Tyler W. Watts, Greg J. Duncan, Haonan Quan. (2018). Revisiting the Marshmallow Test: A Conceptual Replication Investigating Links Between Early Delay of Gratification and Later Outcomes, Psychological Science, 29(7), : 1159–1177.
※3 京都大学 子どもの満足遅延を習慣が支える―マシュマロとプレゼント、長く「待てる」のはどっち?―

プレ・エデュ編集部

Pre edu編集部

Pre eduの企画・執筆・編集をしています。小学校受験や幼児教育に関する情報をお届けします。

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