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小学校受験対策「巧緻性」編 手先の器用さを鍛えるために親子でできること

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小学校受験では、小学校によってペーパー問題のほかに絵画や工作などの課題が出題されることがあります。これは手先や指先の器用さである「巧緻性」を評価するための課題だとされています。プリント学習や問題集での対策がしやすいペーパー問題と異なり、巧緻性を鍛えるためには道具や教材を使った日々のトレーニングが重要です。この記事では、巧緻性を育むために家庭でもできることや日常生活に取り入れやすいトレーニングについてご紹介します。

小学校受験の「巧緻性」とは

小学校受験における「巧緻性」とは、手先や指先を上手に使う能力のことです。塗り絵やお絵描き、ちぎり絵などの制作のほか、折り紙やのり・ハサミを使った工作として出題されることが多いです。絵画や工作だけでなく、紐を通す・結ぶといった基本動作や、お箸の使い方、洋服のたたみ方など生活における動作を通して評価されることもあります。
また、巧緻性に関する課題では、自由制作のほかに試験官が指定した通りに制作を行ったり、行動観察の中で複数の子どもが共同で制作したりするケースもあります。そのような課題では、手先の器用さだけでなく、指示の聞き取りや集中力、集団の中での主体性や態度なども合わせて評価されます。

複雑な指運動は脳の活動を促すことも報告されており、幼児教育においても積極的に取り入れられています。東京都世田谷区内にある4つの小学校において、6年生362名を対象に行われた手指の巧緻性を測定する糸結びテストでは、5分間で完成した糸結びの数が多い群では生活の自立度や知的好奇心、学力が高かったという結果がみられました。※1
小学校に入学すると自分の身の回りのことは自分でできる必要がありますし、先生の指示を聞いたり周囲の子どもたちの様子を見たりしながら行動することも求められます。
これらのことから、小学校受験において巧緻性に関する課題が出題されていると考えられます。

巧緻性は短期間で養えるものではありませんが、手先を使った作業やちょうちょ結びなどの日常動作は、生活においても役立つものです。小学校受験に向けて、日々の積み重ねを大切にし、日常生活を通して巧緻性を育めるよう工夫しましょう。

巧緻性を鍛えるために親子でできること

お子さまの手指の大きさや発達の度合いによってトレーニングの方法もさまざまですが、絵画や工作だけでなく、遊びを通して巧緻性を鍛えることもできます。間違ったクセがついてしまわないよう、正しい持ち方、正しいやり方で練習することが肝心です。

小学校受験の対策を行う塾や幼児教室などでは、月齢や手指の発達に合わせて「握る」「つかむ」「つまむ」といった片手で行う動作から、「ちぎる」「ねじる」「はめる」「通す」といった両手を使う動作、さらにハサミやのりなどの道具を使った動作などを順番に育んでいきます。安全性を考慮した幼児用のハサミや繰り返し使える紐通し用の教材を用意したり、季節行事と関連させて七夕の制作を取り入れたり、紐結びやお弁当包みなど日常的によく使う動作の練習を取り入れたりと、塾や幼児教室ではさまざまな工夫をしています。

巧緻性を育むために、ご家庭でも取り入れやすい具体的なトレーニング方法をご紹介します。

手先を使った工作

両手で行う動作のうち、紙を「ちぎる」というトレーニングは、材料も身近なものでそろえやすくご家庭でも取り入れやすいです。紙に描かれた線に沿って手でちぎる練習や、細かくちぎった紙片をのりで貼りながら絵を描く「ちぎり絵」の制作もおすすめです。一緒に図案を考えたり、さまざまな色を使ったりしながら取り組んでみてください。

手先を使った工作としては、「折り紙」もおすすめです。角と角をぴったり合わせて折ること、お手本を見ながら正しい折り方で作ることなどを意識して、見守ってあげてください。折り紙自体も小学校受験で出題されやすい項目なので、家庭学習の時間だけでなく自由時間の遊びとして取り入れるなど、日常的に触れるようにするとよいでしょう。

「粘土」を使った工作は、「つまむ」「まるめる」といった動作のほか、平らにしたりくっつけたり紐状に伸ばしたりと、さまざまな動作をします。紙を使った工作よりも立体的な作品を作りやすいのも特徴で、巧緻性のトレーニングとしておすすめです。

道具を使った工作

小学校受験における巧緻性の課題では、ハサミやのりなどの道具を使って制作することもあります。道具を使った工作もご家庭で積極的に取り入れ、道具の正しい使い方に慣れておきましょう。
前述した「ちぎり絵」と同様に、紙に描かれた線に沿ってハサミを入れて切る練習や、ハサミで紙を細かく切って貼る練習などがおすすめです。工作ワークブックや過去問題集を参考に、さまざまな工作に挑戦してみてください。
のりは簡単なようですが、スティック型や液体のりなどさまざまな種類があります。どのタイプであっても適切な量ののりをきちんと出せるよう練習しておきましょう。
また、ハサミには安全な持ち方や手渡し方があります。紙を持つ手の位置に注意したり、「お友だちに渡すときは刃先を持って持ち手側を向けるんだよ」と声かけしたりしながら、正しい使い方を身につけましょう。刃先が丸くなっている幼児用ハサミなど、安全性に配慮された道具をそろえておくことも大切です。

工作の材料も多様なものを用意しましょう。例えば、紙コップやトイレットペーパーの芯など身近な素材を使った工作は想像力を養いますし、落ち葉や木の枝など自然の素材を用いることで季節感を学ぶことにもつながります。巧緻性のトレーニングを通して想像力や「常識」の分野の学習にも役立つので、さまざまな道具や材料を取り入れるのがおすすめです。

文房具を使ったお絵描き

小学校受験では、絵画が出題されることもあります。自由にお絵描きすることもあれば、試験官が出したテーマに沿って描くこともあります。日ごろからクレヨン、色鉛筆などの文房具に親しんでおきましょう。

「ぬり絵」もよく出題される課題のひとつです。お手本を見ながら塗ったり、細かいパーツを塗り分けたりとさまざまなやり方で楽しく取り入れてみてください。
また、スタートからゴールまで線を引く「迷路」は、運筆の練習にもなります。点線をなぞる、枠の中に線を引くなど、発達段階に応じて線を引く練習ができるよう工夫された教材もあります。
お子さまにとって遊び感覚で取り組める「ぬり絵」や「迷路」は、家庭学習の息抜きとしてもぴったりです。勉強の休憩時間や遊びの時間に取り入れて、楽しみながらトレーニングしましょう。

紐やリボンを使った遊び

小学校受験では「紐通し」が出題されることがあります。出題方法はさまざまですが、あらかじめ穴をあけた紙が用意され、見本通りに紐を通して形を作ったり、紐にビーズを通したりすることが多いです。また、玉結びやちょうちょ結びなど、紐を結ぶという動作で評価されることもあります。

ビーズを通す動作では、紐の端とビーズをそれぞれの手でつまんで穴に通すために、両手の指を思い通りに動かす必要があります。また、玉結びもよく出される課題の一つです。最初はお父さんやお母さんが紐の端を玉結びしてあげてもよいですが、お子さま自身にも練習してもらい、いずれは自分でできるようになりましょう。
紐通しで図形を形作る練習では、さまざまな見本や台紙が必要です。紐は細すぎないものを用意し、最初は4×4など小さな台紙から始めて、慣れたら大きな台紙にも挑戦しましょう。
自宅で用意しにくい場合は、幼児教室などが販売している教材を購入するのもよいでしょう。

その他の遊び

お子さまが好きな遊びを通して、手指の器用さを発達し巧緻性を育むこともできます。
例えば、積み木遊びは物を「つまむ」動作や積み上げる練習にもなります。巧緻性だけでなく、重ね図形や立体など「図形」の分野にも関連しますし、数えたり大きさを比べたりすることで「数」の分野の学習にも役立ちます。色、形、大きさで分けたり、組み合わせて形を作ったりすることで複合的な学習が可能となり、集中力や思考力も養うことにもつながります。

また、お人形遊びでは、着がえさせるときにボタンや面ファスナーなど指先を使った細かい作業が必要となります。リボンを使えばちょうちょ結びの練習もできます。見立てながら遊ぶことで想像力を養い、お話を考えることで創造力を養うことにもつながるのでおすすめです。

日常生活を通して巧緻性を育む

制作や遊びのほか、日常生活のなかにも巧緻性を育むチャンスはあります。
例えば、毎日行う「お着がえ」には、ボタンをつまんでボタン穴に通したり、ファスナーをつまんで引っ張ったりする細かい指先の作業が含まれています。パジャマから洋服へ、洋服からパジャマへと一日に何回も着がえる機会があるため反復練習にもなりますし、自分で洋服を着がえることは生活の自立にもつながります。

また、靴の脱ぎ履きも子ども自身でできるようになるとよいでしょう。靴を押さえて足を入れる動作のほか、面ファスナーをはがす・とめるという動作も手指の力加減や器用さの訓練になります。また、ちょうちょ結びの練習を兼ねて紐靴を履くのもおすすめです。普段使いは難しくても、プライベートのお出かけ用で一足用意し、時間のある時に自分で結ぶ練習をするとよいでしょう。

毎日の食事も、巧緻性を育む機会になります。小学校受験では、箸を使って豆を移動させる課題が出題されることもあります。指先でつかむ、スプーンやフォークを握るといった動作に加えて、箸を使った食事にも少しずつ慣れていきましょう。誤った持ち方でクセがついてしまわないよう、正しい持ち方を教えて根気強く練習します。もちろん、食事のたびに箸の練習をしていると食べるのが遅くなってしまうこともあるので、食事の時間以外に豆やビーズを箸でつまむゲームなどをするのもよいでしょう。

家事のお手伝い

家事のお手伝いも、巧緻性のトレーニングにつながります。実際に、小学校受験の課題として「洋服たたみ」が課題として出題されることもあります。
洗濯ものをたたんでもらうお手伝いは、最初はハンカチやタオルなどたたみやすいものからやってもらいましょう。次は自分が着ていたパジャマを毎朝たたむよう練習し、年中以上になったらズボンや洋服などをたたむ練習をします。

また、ぞうきんを「しぼる」動作が必要となる、台ふきや床の水拭きも取り入れてみましょう。例えば、夕食の前にテーブルを拭くというお手伝いをお子さまの「仕事」とし、毎回きちんとやってもらうようにすることで、責任感も育まれます。

お手伝いをして家族に感謝されることで、子どもが自信をもつきっかけにもなり、責任感や思いやりの心、ひいては社会性を育むことにもつながります。小学校受験の面接では、家でどれくらいお手伝いをしているか質問されるケースもあります。

巧緻性のトレーニングは集中力や粘り強さを育むきっかけにもなる

巧緻性のトレーニングは、手先や指先の動かし方を身につけるだけでなく、細かい作業に取り組む集中力や、失敗を繰り返して何度もチャレンジする粘り強さ、自分なりに工夫する応用力などを育むことにもつながります。
ご家庭で取り入れるにあたって、お父さんやお母さんは忍耐強く見守ってあげるようにしましょう。お子さまが楽しく取り組むためにも、無理やりやらせないこと、大人の作りたいものを指示しないことを意識します。また、あらかじめ時間を決めて取り組む必要はありますが、お子さまが集中しているときにはむやみに声かけしないことも大切です。

参考資料

※1 川端博子, 田中美幸, 鳴海多恵子. (2009). 手指の巧緻性と生活の自立・学力の関係. 一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集61回大会(2009年), 41-41.

水島 なぎ

水島 なぎ

「書く・編む・正す ことばのよろず屋」を掲げる、フリーランスのライター・編集者。1985年生まれ、京都府在住。同志社大学文学部文化学科美学及び芸術学専攻卒。出版社で資格学習や学参分野のテキスト・問題集を企画編集していた経験をもとに、教育・育児、学術分野などのWebメディアの記事執筆や編集、書籍の編集を手がける。2017年に長女を出産した一児の母。

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